『労働再規制』(ちくま新書)のご紹介

 現在、エル・ライブラリーで好評割引販売中の五十嵐仁著『労働再規制』について簡単にご紹介します。著者の五十嵐氏は法政大学大原社会問題研究所の所長で、ご自身のブログに連載されていた、規制緩和の揺り戻しをめぐる動きについての記事をまとめたものが本書です。ですから、大変読みやすくまた最新の動きを把握するにはぴったりで、新書向けの題材・内容となっています。

 労働分野での規制緩和はいつから始まったのだろう、そしてその反転といえる動きはいつから誰によって始まり、これからどこへ向かおうとしているのか、その動きを本書は丁寧に拾い上げています。

 本書によれば、「変化の潮目」は2006年です。小泉構造改革に象徴される規制緩和の流れが変転したのは2006年。この年、いったい何があったのでしょう。そして、そもそも、労働分野での規制緩和とは何で、どのような結果をもたらし、なぜ規制緩和から再規制への動きが始まったのでしょう。

 規制緩和は中曽根政権下の「臨調・行革」路線に始まります。国鉄分割民営化がその最たるものですが、労働分野では1985年に労働者派遣法の成立から始まった規制緩和労働基準法職業安定法改正、など矢継ぎ早に法改正・法制定が行われます。20年間の流れが一望できる表がp32-33に付いているので参考に。で、規制緩和へと一方向に流れていた労働政策は、2006年12月の「ホワイトカラー・エグゼンプション」(勤務時間を自由にすることにより、一部のホワイトカラー労働者には残業代を払わない)制度の導入失敗が「躓きの石」となります。これ以後、規制緩和一直線だった労働政策に再規制の動きが始まります。

 ではその動きの背景は何でしょうか。大きく作用したベクトルはマスコミと労働運動です。2006年7月にNHKが「ワーキング・プア」について初めて放送し、その後、新聞雑誌で格差問題が次々と取り上げられるようになります。労働運動もまた、2006年に非正規労働者によるユニオンの結成、パート労働者の組織化が相次ぎます。また、ナショナルセンターを超えた共同行動もこの年から目立ち始めます。

 このような流れの中、官の逆襲が始まります。既得権を奪回するための官僚の反撃について、著者は経済財政諮問会議の議事録を細かくひもといて解説していきます。このあたりの描写が実に面白く読めます。経済界の発言、自民党加藤紘一代議士の反省の弁など、「あの人がこんなことを言っているのか」と軽い驚きを禁じ得ません。

 一読した感想は、「官による逆襲」という印象が強いということです。このことを著者五十嵐氏は決して評価しているわけではありませんが、しかし、現在の格差社会をもたらした労働政策のあり方を是正する動きが「官」や一部の「財」から出てきたという下りにはやはり「いったい労働組合は何をしているのか」という残念な印象をぬぐえません。労働組合の力を評価している著者の書きぶりから受ける印象と異なる読後感が残るのは、やはり「官の逆襲」部分の描写が面白いからでしょう。

 さて、官による逆襲によって政官財癒着構造の復活と既得権益の擁護がもたらされるとしたら、それは支持できないと著者は述べています。それではいったいどのような社会を私達は目指すべきなのか、終章において五十嵐氏は日本の進路を「アメリカ型でも日本型でもない第三の道」にあると述べています。それが北欧型の社会福祉重視の社会民主主義型社会であるという明言を著者は避けていますが、第三の道がそのような方向にあることを示唆して本書は結ばれています。

 労働分野での規制緩和の動きをここ20年にわたってコンパクトにまとめてあり、反転の背景となった動き、政官界の動きなど、なんとなくわかっているようでいて実はちゃんと把握できていない問題について本書はとても役に立つ参考書となります。 


 いま、著者のブログ「五十嵐仁の転成仁語」では本書を巡って熱い論戦が展開されています。五十嵐氏の本を批判した池田信夫氏に対する反論が書かれているのですが、その内容やコメント欄への投稿などをネットサーフィンしていてついついあれこれと読みふけってしまいました。池田氏の批判への著者の反論を読むことにより、いっそう本書の内容理解が進むという「効果」もあって、あながち池田氏の批判(というより罵詈雑言のように思えます)も無意味ではないなとか思ったりして…。
 ぜひ五十嵐氏のブログをご一読されるようお奨めします。
http://igajin.blog.so-net.ne.jp/2008-12-23

 本書に取り上げられているさまざまな引用文献、参考文献をエル・ライブラリーも所蔵しています。どうぞご利用ください。(た)

<書誌情報>
 労働再規制 : 反転の構図を読みとく
  五十嵐仁著  筑摩書房, 2008.10   238p (ちくま新書)