不況の町デトロイト便り

 シカゴから飛行機で約1時間東に飛んだところがデトロイトです。ここもシカゴに負けず劣らず寒いところで、湖から吹き渡る風のせいで気温以上に体感的には寒く感じます。滞在中はずっと雪が降って空はどんより曇っていましたが、この町の暗さは単なる気候のせいではなく、まさに今急落するアメリカ経済を象徴しているかのようでした。

 デトロイトではミシガン州立ウェイン大学の一角にあるルーサー記念図書館へ行きました。
 ルーサー図書館のサイトはここ。
http://www.reuther.wayne.edu/ 

ここは、全米自動車労組UAW)の初代会長でありCIO(アメリカ労働総同盟)会長でもあったウォルター・ルーサーを記念して作られた労働問題の専門図書館です。4階建ての建物すべてがルーサー図書館であり、その膨大な資料群は全米一の質量を誇ります。ルーサー図書館は蔵書の8割をUAW関係が占めていることからみてもわかるとおり、自動車の町デトロイトにふさわしい労働図書館です。
 わたしたちを案内してくれたウィリアム・ルフェーブルさんは16人いるアーキヴィストの一人です。建物の1階のフロントデスクの周りには期間展示がありました。だいたい3ヶ月ごとに展示を変えているそうで、今回はUAWの元会長フレイザーに関する展示パネルが張り巡らされていました。フレイザー元会長はケネディ大統領と一緒に写真に収まっていましたし、UAWの政治力は大変大きなものであることが今回の調査によってよくわかりました。UAWの現会長は大統領と個人的に電話で話をするということです。

(写真は資料が入った箱が並ぶ書庫)
 
 ルーサー図書館の詳細は後日紹介しますが、今日はデトロイトの町についての短い感想を書きます。サブプライム問題はアメリカ中西部から始まりました。まさにデトロイトがその発端の町であります。この1年で急速に景気は悪くなり、とりわけ去年9月以降の落ち込みがものすごく、誰もが予想できなかったほどのスピードで不況が深刻化しています。この半年ほとで人口は3万人減少し、部品工場が閉鎖された町などはホテルも床屋も学校も閉鎖されてしまったということです。デトロイト一の繁華街を車で走ると、通りに面したいくつもの店が閉鎖され、"for sale""for lease"の看板が目に付きます。一歩通りを奥に入ればさらに”for sale"の看板がかかった家が多いということで、しかもその看板が1年以上かかったままの所も多いということです。

 GM本社が入るデトロイトルネサンスセンターへ行きましたが、ここも閑散としていました。ルネサンスセンターーはマリオットホテルや高級ブティック、レストランが入る複合施設であり、デトロイト市の象徴でもあります。ここのスターバックスはとても「スタバ」とは思えない高級感にあふれています。丸いビルの真ん中に丸いフロアがあり、オペラハウスの桟敷席のように空中に突き出したコーナーがいくつもあって、そこにふかふかのソファが並んでいます。そんなスタバも空席が目立ち、商談している人もほとんどいません。一階のGMショールームも人がまばらです。ここに並んでいる車のいくつもが自由にドアを開けて乗っていいようになっています。今年のモーターショーは史上最低のものだったそうで、各社が経費節約のためコンパニオンガールを減らし、新車を一台も発表しない、日本からの出展も激減、とにかくしょぼかったということです。

 ルネサンスタワーの前を流れる川の向こうはカナダです。カジノビルが見えるカナダの町ウィンザーも今はデトロイトの不況のあおりを受けて町が沈んでいるようです。かつてはカナダからデトロイトに出稼ぎに来る人も多かったそうですが、9.11の後、入国審査が厳しくなり、国境を越えるのに何時間かかるかわからないような状態になったため、出稼ぎも激減したということです。

 とにかくデトロイトでは明るい話題は何もありませんでした。ただし、日本で想像する以上の労働組合の影響力の大きさを知り、驚きました。フォードの工場見学の折に見せられた映画は、オープニングのタイトルバックにフォード社のロゴと一緒に大きく「UAW」の文字が燦然と光っていました。会社の歴史を宣伝する映画のオープニングに労組のマークが登場するとは驚きです。また、1930年代の不況時の大争議でフォード社が労働者を弾圧して流血の惨事となった様子も隠さずに映し出しているのにも感心しました。

 デトロイトは人口の8割をアフリカ系が占める黒人の町ですが、フォード工場のライン労働者はほとんどが白人でした。ラインについている労働者は熟練者が多く、時給も3000円ぐらいと、高いそうです。工場見学の際に案内してくれる人たちは退職者のボランティアさんたちです。現職の人たちもUAWの組合員であり、労組員の方から今の状況について個人的な感想を訊いてみました。やはり、ビッグ3(フォード、GMクライスラー)に対する公的資金援助は税金を投入するわけですから慎重にせねばならないし、労組も自分たちの権利ばかり主張して高い賃金・年金を要求し続けることは避けねばならない、という意見でした。

 あまりにも深刻な不況ゆえ、オバマ大統領への期待は高く、スーパーヒーローを国民は待望しているということでした。しかしオバマ大統領の舵取りはかなり難しいと思われます。そんなに簡単に「グリーン・ニューディール」が奏功するでしょうか。オバマ熱がヒートアップするシカゴやデトロイトではオバマチョコレート、オバマTシャツ、オバマDVD、などなどのオバマグッズがコンビニでも売られています。一時の熱狂が冷めたときこそが大統領の真価が問われるときです。(続く)