格差問題の新刊書

 新刊自著をご寄贈ください!

http://d.hatena.ne.jp/l-library/20091016 で書いたように、橋本健二氏からご高著を3冊とほか1冊を寄贈していただきました。そのうち、今年刊行された2冊を紹介します。

貧困連鎖 橋本健二著2009/2/28発行 大和書房
 階級社会論を専門とし、格差、貧困問題について活発に執筆を続ける社会学者による最新刊2冊です。「格差論ブーム」とでも言えるような昨今ですが、センセーショナルな話題で終始してしまうのではなく、格差問題にきちんと向き合うためには必読の本です。どちらも、著者の手法として、公的な統計データを丁寧に駆使した数量的分析にあわせて、大衆文化や風俗等から社会や人々の生活を読み取るという、両面からの分析がユニークです。

 現代の日本の格差をめぐる状況の問題点は何なのか、どのようにして生み出されたのか、解決するにはどうすればいいのか、これまでの著作でも著者が行ってきた主張を、より詳しく、ひとつひとつかみくだいて解説しています。現代日本の経済格差をめぐる状況を丁寧に解き明かし、そのどこが問題なのかを明らかにし、この格差拡大や貧困が、政財界や米国の圧力によって、国の政策として生み出されてきたものであることを解き明かしていきます。規制緩和や税制、生活保護の「水際作戦」など、様々な政策を通じて、きわめて構造的に生まれたものであることがわかります。(そのなかで、「金持ちほど酒税が安い」という指摘は「居酒屋の考現学」という本も出している著者ならではでしょうか)最近では格差論議も活発になって、「格差があるのがなぜ悪い?」という、開き直り的な言説はさすがに少なくなってきたようですが、やはり「格差」という言葉には、いろいろな側面やニュアンスがあるものです。そうした、混乱しやすい議論のなかで、「格差があるのは当然」「グローバリゼーションのもとで、格差があるのはしかたない」といった言説に対して、何がどう問題なのか、そしてその解決には何が必要か、著者の主張を大変わかりやすく解説した本です。



「格差の戦後史」橋本健二著2009/10/30発行 河出ブックス003 河出書房新社

 格差と階級について活発に執筆を続ける著者の最新刊。戦後日本の階級構造の戦後の歴史的変遷をたどる本です。現在問題となっている格差、貧困も、いきなり発生したわけではなく、拡大したり縮小したり、歴史的な経過を経て、現在に至っているわけで、そうした歴史的な変化を検証しておくのは重要なことです。公的資料を中心としたさまざまなデータの丹念な検証によって、終戦から現在に至までの階級構造、格差の統計的変化を捉えていき、それにあわせて、その時代、時代の事件や風俗、映画や小説といった大衆文化風俗を取り上げながら、格差や不平等が、生活の中で、人々にどのように感じ取られていたかも丁寧に検証しています。戦後の混乱から、復興、高度成長、バブル期を経て、現在に至るまで、格差がどのようにして拡大したり縮小したりしてきたのか、その歴史的過程をたどる中で、格差論について考える上で大変重要な、多くの興味深い指摘がなされています。

 1960年代の高度成長期のあと、引き続き、賃金格差や地域間格差が縮小した(小零細企業、中規模農家の貧困率は高いままですが)、1970年代に「一億総中流」という言葉に代表される、日本は豊かで格差の小さい国だという認識が生まれ、保守派から、マルクス主義、過激派まで、共通の暗黙の前提となってしまったこと。そして、それ以降、社会科学を含めて、日本の経済格差、階級、不平等、貧困に対する視点をくもらせてしまったことになったのです。また、1970年代には、学歴と所属階級、階層の関係が確立し、階級社会が、「学歴社会」として問題視されていたという指摘。そして、1980年代にはバブル経済に向かって行くなかで、格差は再び拡大をはじめ、「玉の輿ブーム」や消費、マーケティング論のなかに、今から思えば、格差拡大を浮き彫りにする言説がかいま見られること。また1980年代後半から2000年代初頭にかけてすでに、女性の非正規雇用労働の増加に伴って、女性の格差が拡大していったこと、などなど。格差について、表層的な議論で終わってしまわず、より深めていくための示唆に富む本です。(山口智