読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

『おもしろかってんよ−飯田しづえさんの八十三年を聞く』

 飯田しづえ(1909〜2003年)は関西草の根運動や女性の政治参画の草分け的存在で、大阪府水平社結成80周年を記念して特別功労表彰された。
 本書は、彼女の長男の世代・50代から孫の世代20代の7名の女性たち*1による聞き書きで、トップリーダーの業績中心ではなく、若い世代がその生きざまに学び、社会の矛盾を変えていく活動に入っていきやすいものとなっている。
 前回紹介した『自由と解放へのあゆみ 松本員枝聞き書き』(ドメス出版)の松本員枝と共に活動した部分が多いので、聞き書き出版については、「私は自分史に関心ないわ」「松本さんの本があるから、今更必要ない」と断っていたが、孫の世代30代中心のたっての願いに、「若い人たちといっしょに考えて、私も勉強できて、若い人たちが何かを創り出すのに役に立つのやったら」と承諾。最初は、会のメンバーだけでなく、広く呼びかけて「飯田しづえさんの83年を聞く集い」を4回開き、しなやかで強靭で豊かな人生に、本物の民主主義と不屈の精神を多くの人たちが学び、その後、1年がかりで7名による20回近い聞き書きが重ねられた。

 1909(M42)年11月大阪で生まれ、2003(H15)年3月93歳で逝去。
 戦前、小学校教員時代に新劇との関わりで警察に拘束されて、退職を迫られた。「はじめての挫折」から東京の自由学園で洋裁を学び、大阪にもどって、洋裁のパイオニア田中千代の門下生となり、心斎橋にあった鐘紡洋裁店のチーフとして働きながら、友人と2人で、阪急石橋駅前に「ローザ洋裁店」(ローザ・ルクセンブルグの名前から)を開き、かけもちで働く。洋裁を教えることを通して働く女性たちと接して、読書会「ローザ・クラブ」を組織する。後に夫となった飯田精次郎や丸山博(後に阪大医学部教授)らが組織していた「タガネ会」と合流して、学習組織「生活教室」を結成し、弾圧をくぐってギリギリまで開催した。その社会・自然科学や文化芸術を網羅したカリキュラムは、今にも通じる体系的で興味深いものである。当時の働く若い女性にとって、社会や生活のことを学ぶと同時に、安心して物が言え、自分を解放できる場所だった。1941年12月に戦争のためやむなく閉じたが、人に働きかける彼女の積極姿勢は、疎開先の信州須坂でも発揮され、若い女性たちが洋裁を習いながら、歌を歌い、学ぶ輪ができた。
 戦後は、婦人民主クラブ豊中支部を結成して、1952年豊中市地域婦人団体連絡会結成に参画し、初代会長に。伊丹基地拡張反対運動や保育所づくりなどの地域ぐるみの運動から推されて1955年豊中市議会議員にトップ当選し、豊中市初の女性議員となり、7期務める。地域ぐるみの伊丹基地撤去運動、吹田事件の裁判で証言に立ったこと、3・1ビキニ事件で久保山愛吉さんの死に対して、豊中駅前に卒塔婆を作って、線香をあげる人々に原水爆について考えてもらったこと、第1回原水爆禁止世界大会のことなど、暮らしの中から地域に民主主義を育ててきた粘り強い歩みは、日本の戦後民主主義がどのように築かれていったかを、生き生きとした語りに引き込まれながら学べる。
 地域の活動だけでなく、合成洗剤追放、全国初の農薬裁判支援、国際婦人年大阪連絡会、女性差別撤廃条約府民会議、部落解放共闘、同婦人連絡会議、家庭科の男女共修を進める関西グループ等に代表もしくは中心的な役割を果たし、ユニークな話し振りとエネルギッシュな行動力が本書の隅々に漲っている。巻末の年表は、時代的背景や社会運動と照らし合いながら、彼女の歩みと関わった運動が記されていて、客観的資料としての価値を添えている。
 彼女独特の「おもしろかってんよ」のソフトな大阪弁の語り口で構成されているが、その内容は戦前の弾圧時代から一貫した筋の通った姿勢で貫かれ、生活の隅々から民主主義の思想が染みとおっていくようである。(伍賀偕子)

<書誌情報>詳細はタイトルをクリックしてください
おもしろかってんよ 飯田しづえ聞き書きの会編 1993年

<エル・ライブラリーが所蔵する関連資料>

  • 大阪おんな自分流
  • 朝鮮戦争と吹田・枚方事件 脇田憲一著

  • 大阪で闘った朝鮮戦争 西村秀樹著

  • 資料 6・25吹田事件被告団

  • 吹田事件とは(解説) 6.25吹田事件被告団

  • 吹田事件第2審裁判闘争支援に関する決議(案) 大阪地評

  • いわゆる吹田騒擾事件第1審判決

  • 大阪に於ける弾圧事件とその闘い 訪日中国人民救済総会代表団歓迎大阪実行委員会
  • 伊丹飛行場 大阪軍事基地反対連絡会議

  • 占領と平和運動

  • 不屈 伊丹地方労働組合協議会
  • 平和経済国民会議・国民会議1954?57年

  • 米軍政管理と平和運動

  • 伊丹軍事基地反対闘争報告書
  • *1:宇田川成子、小川裕子、伍賀偕子、鈴江稔子、西村久美子、西村孝子、藤田なぎ