エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)

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『アーカイブズが社会を変える』でエル・ライブラリーが紹介されています。


アーカイブズが社会を変える』松岡資明(平凡社新書 2011.4)

公文書管理法施行によって何がどう変わるのか。外国に後れをとる日本のアーカイブズの世界で起きている地殻変動をリポートするとともに、多様な広がりを見せる、その世界を案内する。(平凡社HPより)
第1章 後れた国ニッポン/第2章 アーカイブズの宇宙/第3章 資料保存の危機/第4章 公文書管理法で何が変わるか/第5章 社会に欠かせぬアーカイブズ/第6章 課題と展望

2011年4月に施行となった公文書管理法。さすがにこの公文書管理法成立まで取材を重ね、前著『日本の公文書 ―開かれたアーカイブズが社会システムを支える―』(ポット出版 2010.1)を記した著者だけあって、公文書管理法制定までの過程、実情、今後の課題が第4章・第6章で明晰に解説されています。第3章では日本におけるアーカイブズの歴史がまとめられており、研究の拠点たる大学でさえも記録資料の保存が危うい、日本のアーカイブズに対する意識の脆弱さが検証されています。

第2章では9つのアーカイブズの実例が紹介されており、エル・ライブラリーもそのひとつです。

しかし、これほど膨大な量が日々つくられている公文書にしても、アーカイブズの全体像からみれば一部にすぎない。いわゆるテキスト以外にも画像、音声、映像など様々な形像からみれば一部にすぎない。それほどアーカイブズの世界は広く、深い。まるで宇宙なのである。アーカイブズが理解されにくいのは、それほどまでに広く、深いためである。その世界への導入部として公文書を位置づけることが可能だ。この章で紹介する事例は、アーカイブズの世界がどこまで広がっているかを示すための、ほんの一部にすぎない。(26p)

資金稼ぎの古本市から書き起こされた当館の紹介文章の題は「エル・ライブラリーの挑戦」。本書で松岡氏が言われるように「民間組織や個人が記録資料を半永久的に保存していくのはほとんど不可能に近い(109p)」。その不可能に抗して資料を保存するべく奮闘している民間組織は多数あるわけで、エル・ライブラリーはその一例としてここに挙げていただいたのでしょう。しかし、やはり「挑戦」という語が示すようにあまりにも不確定すぎる民間アーカイブズの現状への危惧が他機関の紹介を通しても表されています。

また、当館の特性、紙資料だけではない多種の資料の所蔵についても筆を多く割いていただいています。「まさに、走りながらライブラリーを構築してきたのである。その結果、個性的な性格のアーカイブズになったともいえる。モノ資料を含めて実に多種多様な資料を収集してきたからである。(40p)」の一文、特に「走りながら」の表現はあまりにも当館、というか我々の本質を突いていて衝撃を受けました。

そして、同じく第2章でエル・ライブラリーと並んで紹介されている東京電力電気の史料館」の項には大変複雑な思いがします。東日本大震災後、「電気の史料館」は休館。

電気の史料館」は電気事業の明治からの貴重な資料・史料が保存されています。上記のWEBサイトではわかりませんが、本書で紹介されている、文書館には東京電力全社から実際に使用してきた文書が収集されている点は周知されなければならないでしょう。「電気の史料館」の進退は不明ですが、「記録がなければ歴史は語れない(20p)」「過去を検証し、未来に資するには不可欠なものである(11p)」という意識を私たちが共有することができるか否かがまさに試されているように思います。

本書では第2章以外の章でもさまざまなテーマを持ったアーカイブズが紹介され、上記の「まるで宇宙」の一端が表現されているのですが、その一つ、脚本アーカイブズの項の次の一節はアーカイブズに取り組む我々が常々感じていることであり、大いに首肯するものです。

「故人の作品を預かるということは、その脚本・台本にこめられた故人に対する家族の想い、哀情を預かることと同義であり、厳粛な態度で臨まねばならないことを感じさせられた。」と続く。筆者には、アーカイブズの根源にかかわる記述のように感じられた。(167p)


なお、本書は2011年7月10日の日経新聞日曜読書欄「資史料をデジタル保管へ」(国立国会図書館主幹柳与志夫)において取り上げられており、ありがたくもエル・ライブラリーの名前を出していただいています。

アーカイブズが社会を変える』(松岡資明著、平凡社新書・11年)では、ジャーナリストとして09年の公文書管理法制定に貢献した著者が過去を検証することの重要性を訴える。紹介されている天草アーカイブズやエル・ライブラリーなどの実例は、アーカイブとはどういうもので、成立するためには何が必要か理解するうえで役に立つ。(上記記事より引用)

                                                                (千本)