エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)

ブログ記事の引用転載を希望される方は、https://l-library.hatenablog.com/about をご確認ください

宮城・福島の旅(2)


 9月13日(火)、午前中に長町病院を訪ねましたが、その話は第3回に譲り、旅程では逆になりますが、南相馬市立中央図書館訪問記を掲載します。
 この日は、仙台市を後にし常磐線に乗って一路南相馬市へ。と言いたいところですが、常磐線津波で駅舎ごと流出したところがあったり、線路が無くなっていたりして、亘理(わたり)駅から久ノ浜駅までは運休中です。亘理駅からは代替バスに揺られること2時間。やっと到着した原ノ町駅周辺は人影もまばらで、とても南相馬市のメイン通りとは思えません。
 目的の南相馬市立中央図書館は原ノ町駅のすぐ隣にあります。南相馬市は市の南半分近くが福島第一原発から20キロ圏内にあるため、立ち入り禁止になっています。図書館のある原町区はちょうど市の真ん中に位置し、市役所や県の合同庁舎のある行政の中心地区です。震災後、南相馬市図書館では、今後は原発関連の資料を過去のアーカイブと最新情報(とりわけ予想される健康被害についての情報など)の両方にわたって網羅的に集めていくという収集方針を立てられました。ただし、図書館の職員は震災復興関連の仕事にかり出されて開館できない状態が続き、やっと8月9日に再開したけれども人員不足のため、思うような図書館運営ができていないとのことです。館長補佐の早川光彦さん(9月13日時点では市役所の福祉課に異動)にお話を伺いましたが、一日も早く十全な運営をしたいとの思いが強く伝わって来ました。
 南相馬市立中央図書館は2009年12月に開館した新しい図書館です。広々した空間は三カ所に区切って吹き抜けになっており、テーマごとに区切った棚作りが目を引きます。分類番号の順番に本を並べるのではなく、随所に特集展示や「旅」「音楽」「美術」といった分野ごとのスペースがあり、たとえば美術の机の周りにいるだけで美術館にいる気分が味わえるような工夫が凝らしてあります。

 都道府県コーナーのコンセプトは「旅」です。各自治体の観光課にパンフレットを送ってくれるよう依頼し、集めた観光パンフレットを都道府県ごとの引き出しにいれて来館者に配布しています。

 人気のある観光地のパンフレットはすぐに無くなってしまいます。沖縄の引き出しは人気沸騰でからっぽ。徳島はたくさん残っているようですね(^^;)。
 専門図書館と違って公共図書館は蔵書そのものの魅力だけではなく、空間が醸し出す雰囲気が大きな吸引力となって人々を惹きつけます。そういう意味で、ここは設計者が図書館のことをよく分かっていると痛感させられる見事な作りかたなのには感心しました。いちばん上の写真は2階から1階の吹き抜け部分を見下ろして撮ったものですが、真ん中やや左下に黒っぽい部分があるのがおわかりでしょうか。これは座席なのです。書架の間にこういう座席がぽつんぽつんと配置されていて、一人分の照明がピンポイントで座席を照らすように設計されています。茶会も催せる和室があったり、テラスでも本が読めるなど、随所に粋な計らいがある図書館です。

 空間設計の見事さだけではありません。図書館に入ってすぐのところにはピアノが置いてあり、自動演奏してくれるのです。静かで心地よい音楽が館内に流れる。音は御法度というところが多い図書館では珍しい憎い演出です。 
さらにこちらでは図書以外のいろんなものを貸し出しているのを知って、びっくりしてしまいました。

 ポスターコーナーに置いてあったこれらのポスターはすべて貸出可能です。専用の袋に入れて貸出ます。
 なんと玩具も貸し出します。子どもコーナーに置いてある玩具はほとんど全部貸出可能で、ちゃんとバーコードも貼ってありました。


 こんなもの↑まで貸し出すのです。この子馬ちゃんにはマジックで資料コード番号が書かれていました。持ち帰るのも大変そうなかさばる玩具ですが、家でこれに跨り、嬉しそうに遊ぶお子たちの姿が目に浮かんで微笑ましいですね。

 ↑は机の上に置いてあった折り紙の灰皿ならぬ「カス皿」です。一瞥したとき、机の上に紙くずが置いてあると思ったのですが、近づいてよく見ると、「消しゴムのカスを入れて下さい」と書いてあるではありませんか。この気配りにはうなりました。 

 早川さんはこの図書館を開館するにあたり、大型書店の棚作りを参考にされたそうです。従来の公共図書館の作り方にこだわらないホスピタリティに溢れた図書館作りのおかげで、開館以来人気スポットとなり、多い日には来館者が2000人という賑わいを見せ、館内人だらけだったとか。人口7万人(震災前)の南相馬市での利用者数ですから、驚くべき数字ですね。それが現在では、子どもの姿を見かけることもほとんどなく、寂しいことです。

 最後の写真は、震災特集と原発特集の棚です。この中に『やっぱり原子力』という新書があるのを発見。日本電気協会新聞部が2007年に発行したこの本は今こそ読まねばと思うようなものです。「地震の時は原発に逃げればいいというくらい原発は安全だ」という意味の事が書いてあって呆れました。
 今回、谷合が南相馬市立中央図書館を訪ねたのは、saveMLAKで今後の原発関連資料収集に協力するため、その御用聞きが目的でした。早川さんからいろいろとお話を伺って、原発立地の図書館ならではの悩みをお持ちであり、なおかつ強い使命感に燃えておられるのを見て、「ライブラリアンここにあり」との感を強くしました。図書館に何ができるか、いや、図書館こそ情報収集と発信の砦であるということを自覚し、そのために全力を尽くしたいとの強いお考えが痛いほどよくわかりました。一日も早く早川さんが図書館に戻って来られることを願います。
 なお、saveMLAKで集めた原発関連資料リストはこちらで公開しています。まだエル・ライブラリーのデータを掲載していないので、来週中には掲載できるようにしたいと思います(宿題!)。  
 ここまで書いてきたところで、早川さんから、10月の人事異動で図書館に戻れたとの連絡が。南相馬市図書館、復興へ向けて本格始動です! (谷合)