エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)

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『逃げられない性犯罪被害者〜無謀な最高裁判決』

杉田聡編著/桐生正幸・橋爪(伊藤)きょう子・堀本江美・養父知美/青弓社/2013 (四六判232頁/2000円+税)

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本書編著の意図は、― 近年、最高裁が性犯罪に逆転無罪判決を下す事例が相次いだ。それはなぜなのか。裁判官は「女性は逃げられるはず」などといった「経験則」を固守するが、本書はその決定的な誤りを指摘する。そして、被害者救済の整備や司法官への教育など、性犯罪に関する具体的な対策を提言する。― という編者の言葉に尽きる。
2006年12月末夕刻千葉市で起きた性犯罪― 通行中の女性(当時18歳)を「ついてこないと殺すぞ」と脅し、付近のビルの階上踊り場まで連行して、壁に押し付けた状態で強かんした(千葉地裁判決)事件に対し、一審・二審の有罪判決を覆して、最高裁が高裁に差し戻さずに、「女性の供述は不合理で不自然だ」と認定して「無罪」と自判した(2011年7月)。
2009年にも、ある痴漢事件に対し、最高裁が一審・二審の有罪判決を覆して無罪判決を下しており、編者によると、二つの判決の基本構造はうり二つであり、被害者を過酷な状況に追い込む非人道的な犯罪に、「経験則」やいわゆる「レイプ神話」で、性犯罪を許し、結果として助長する本判決を「徹底的に」分析している。
編者以外の4人の筆者は、犯罪心理学者、精神科医、弁護士、産婦人科医で、専門的立場から、本判決にとどまらず、性犯罪への認識を深める豊富な事例や意見を述べている。
レイプ神話」とされる、逃げられた筈、記憶が曖昧、被害者の落ち度、被害者の職業、通報・告訴をためらうなど、性犯罪被害者が落としいれられる過酷な状況について、説得力ある記述がなされている。
 本判決は、「経験則」に依拠して、逃げられた筈であるのに逃げていない、助けを求めていない、抵抗していないというような、裁判官の狭い「経験」の絶対化によって、性犯罪の成立を否定している。司法関係者は性犯罪にどれだけ学び、研究しているかの提起を、多くの判例分析により、「裁判官が抱いている性理解・性犯罪理解は非常にゆがんだもの」と断定している。
 終章では、「性犯罪のない社会を」つくるために、(1)性犯罪と性犯罪に関る恣意的な判決を防ぐための司法改革、(2)被害者救済制度の改革、(3)加害者更正プログラムと被害防止法、(4)より全般的な法的・社会的改革の提言が論じられている。(伍賀偕子)