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熊沢誠『労働組合運動とはなにか―絆のある働き方をもとめて』

 本書は、今日否定しがたい「労働組合運動の衰退」に対して、「労働組合というものの存在意義を、しんどい思いを抱えて働く人々の心に沈殿させようとする『直球勝負』を試みた」(著者「あとがき」)熱いメッセージが伝わる書である。書名にあるように、「なかまとの絆のある働き方なしには労働者はいつまでも不安なまま、暗いままの生活から脱却できないと懸命に説得するものである」と、著者は語る。
 本書の内容は、2011年10月〜2012年3月に開催された「労働組合運動の復権」と題する連続講座の講演内容をもとにした著書である。主催は、労働と人権サポートセンター大阪、研究会「職場の人権」の共催で、講座(5回)では、各回とも、第一線で活躍する人々のユニークなコメントが企画され、100名近い参加者による熱心な討論も展開された。
 このような企画が関西において可能なのは、著者自身が長年代表を務めてきた研究会「職場の人権」の蓄積とその豊なネットワーク、そしてそこで熊沢が果たしてきた先駆的な役割によるものだと言えるだろう。 
 目次は、

  • 一章 労働組合原論―その思想、その機能、その多様なかたち
  • 二章 欧米労働組合運動の軌跡と達成
  • 三章 企業別組合への道ゆき―近代化・現代化の日本的特徴と労働者
  • 四章 労働組合運動の存在は今どこに?
  • 五章 労働組合=ユニオン運動の明日 ― で構成されている。

 労働・労使研究において日本を代表する著者は、半世紀以上に及ぶ研究の中で、能力主義管理、ジェンダーや雇用形態による差別、リストラ、若者労働、格差社会、過労死、過労自殺等の実態を考察する多数の著書により、「労働問題」が直面するリアルな課題の分析と問題提起を重ねてきたが、本書では、その命題― 労働問題は、広義の労働条件に関する現場労働者の発言権、決定参加の有無と程度を問うことなしには真実を把握できず、その「有無と程度」を決める労働組合運動なしに労働者の職場内外での生活と人権を守りきることはできない、現時点では、いや現時点ではいっそう労働組合運動の不可欠性はあまりにも明瞭だ― について、鮮明な問題意識による史的研究と豊富な実態分析・運動実践例を踏まえて、集大成されている。
 一章の「原論」では、今日否定的にしか語られず、忘れそうになりつつある「労働組合」論が、基本的な機能を机上の空論ではなく、二章の欧米労働組合運動の史的研究や日本での苦悩的実践・類型化の過程を踏まえて語られている。労働者はすべてアトムとして弱肉強食の世界に生きているが、労働者は無意識的にせよ、自然発生的な助け合いの慣行を含みもつ「可視的ななかま」=<労働社会>を意識的な居場所や帰属集団にしたものが「労働組合」であり、「具体的な必要性と可能性を共有する」なかまの間から出発する― と。
 日本の労働組合運動の限界が語られる時、企業内組合であるがゆえの「宿命」論が一般的で、絶望的になりがちだが、「この企業別組合の唯一性という迷妄から脱却しなければならない」し、「現実にも脱却は進んでいる」。「労働組合」を企業内の組織として絶望のうちに見放し、個別労働紛争の解決に奔走する企業外の「ユニオン」のみについてある期待を込めて語るのは、良心的な社会運動家がときに陥る視野狭窄である・・・と著者は語る。企業別組合の機能を内部変革するいくつかの契機を、たとえば、二章でアメリカの自動車産業組織化の成果から導き出している。
 そして、企業横断的な機能を営む産業別組織やナショナルセンターへの「期待」が、「政策課題を担う社会運動」の追求として語られる。
もちろん、多くの字数をさいて、非正規労働者のたちのユニオンづくりの粘り強い実践の蓄積と、そこから一般化される可能性が語られている。
道筋は険しいけれど、本書では、明日の方向が語られている。  (伍賀偕子)