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共助の稜線―近現代日本社会政策論研究

本書は、20世紀を通じた日本社会政策の検証を通じて、「国家レベルだけでなく、自治体・企業・地域・家族レベルでのダイナミックな展開や交差がわが国の社会政策形成にどれほどの影響力を与えたのかをも視野にいれ」て、近現代日本社会政策論を貫く「共助の稜線」といったものを浮かび上がらせようと試みた大作である。

 「近年往々にしてみられる戦後の限られた時期に限定した日本社会政策分析や福祉国家比較論では、日本的な社会政策の奥の深さといったものを析出することは著しく困難であろう」という著者の意図どおり、一世紀にわたる長期的分析のなかで、社会政策の日本的特質を析出している。その方法論のキーワードは、「社会政策と経路依存」。新しい制度は、「それまでの制度的な蓄積に大きく規定される形でしか誕生する他なかった」と。わが国の社会政策の経路依存の強靭性が指摘され、その透視から日本的特質が検証されている。

 また、これまで欧米を中心に進められてきた国際比較、「欧米の優位、日本の劣位」といった伝統的な視点を克服するとともに、現在東アジアレベルで展開されている社会政策の国際比較にも資する視座を提供することも射程に入れている。

 いかに体系的に網羅されているかを伝えるために、長くなるが、構成を紹介したい。

第1部 アジア間比較の座標軸
 第1章 社会政策のアジア間比較■日本の経験から
 第2章 20世紀と福祉システム■日本を中心に
 第3章 日本における社会政策の展開と特質■東アジアの比較軸
 第4章 21世紀生活保障思想への課題と展望■戦後50年の回顧から
第2部 格差・貧困と国民皆保険・皆年金体制
 第5章20世紀後半期の日本社会保障改革■「国民皆保険・皆年金体制」の意味
 第6章 日本の「財政調整」型社会保障
 第7章 「年金レジーム」の日本的展開 
 第8章 現代日本のポバティラインを考える
第3部 <都市>社会政策の生誕と展開
 第9章 近代日本常用労働者像に関する覚え書■繊維産業を中心に
第10章 関一と大阪市の先進的社会政策
第11章 国際的視点から見た大阪市社会部調査報告
第12章 日雇労働システムと労働行政■大阪の事例を中心に

 書名については、日本の社会政策の特質、基本原理を<共助>という概念で描ききろうとする意図であり、国家の社会政策、企業福祉、地域福祉、労働者福祉が大きく絡んできた史的経過を辿ると「稜線」となって現われるというメッセージである。

 1990年代からのグローバル化の進展等によって、<共助>原理が大きく揺らぎだし、<自助>原理の重視に傾きかけているかに見えたが、21世紀もすでに10数年経過した今日、わが国で作り上げられてきた<共助>原理にもとづく生活保障・生活支援システムがいかなるものであったかを検証することで、再度新しい<共助>原理の構築に向けてのメッセージとしたいと著者は語っている。

 字数の関係で各章の内容について紹介できないが、第3部の大阪における「先進的社会政策」と、それを可能にした歴史的分析や、日雇い労働システムの施策の記述は、昨今の政治状況からみても示唆深い。
 「格差」「貧困」が大きな焦点となっている今日、年金、生活保護最低賃金の3者の関係の「内実に迫っている」が、期待を込めて言えば、2013年春の社会政策学会大会(第126回)の共通論題が「ジェンダー平等と社会政策」と設定されたように、この視点からの制度分析と設計が必要なのではないだろうか。(伍賀偕子)