エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)

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『みつや交流亭物語』

『おもろい商店街のなかのメチャオモロイみつや交流亭物語』片寄俊秀編著(2014年6月/特定非営利活動法人みつや交流亭発行)90p,21cm

 とにかくおもしろい。案内人(編著者)の軽妙な筆運びで一気に読みすすみ、「行ってみたい」と誘われる本である。

<商店街のなかに、いつも賑わってる不思議な空間ができた>

 場所は阪急電鉄神戸線神崎川駅」からすぐに広がる「三津屋商店街」と、その中に溶け込んだ不思議空間「みつや交流亭」。

 学校帰りの子どもたちが「おばちゃん! 水」と駆け込む。みつや交流亭自慢の冷たくておいしい「大阪市の水」を求めて、夏場といわず、日によっては列ができる(大阪市の水道水ってそんなにおいしかったっけ?!)。

 水とトイレと優しいおばちゃん、これが交流亭の「三種の神器」だそうだ。「おばちゃん」というのは、昼間の「子育て交流の場」「つどいの広場」を運営している素敵な女性グループ。昼間は子育て支援、フリースペースでは思い思いに勉強したり遊んだり。

 夕方からは、落語会、音楽会、映画会、講演会、勉強会、バザーや物販など、いつも賑わってる不思議な空間。毎週金曜日は「つどいの広場ティールーム」、コーヒーと商店街お勧めのお菓子セットの実費サービス。常連さんが増えて話が弾む。「第2土曜映画劇場」は映画ファンを惹きつけている。毎月何かのイベントがあり、「落語deカルチャ」が2か月に1度、人気が高い。ほかにも多彩なプロの至芸が繰り広げられる。「世界の英会話」「世界の音楽イベント」や毎年秋の恒例「三津屋音楽祭」、「ぼうさい朝市&昼市」、商店街の春夏の大売出し「三津屋どんたく」のおまつりへの参加・・・etc

― 「みつや交流亭」が目指しているのは、まちと人を元気にする拠点としての「まちなか広場」「集いのスペース」「寄合いどころ」「まちなかオアシス」「ほっとスペース」「まちかど研究室」「まちなかセカンドハウス」「まちの縁側」・・・そんな感じの場所を商店街のなかにつくって、人々の知恵と活力が生まれるまちづくり。

 この本は、

  • どうして、このような場所が商店街の中に生まれたのか
  • ここから何が始まろうとしているのか
  • これからどう育てていくのがいいか

をみんなで考え、実践していくためにまとめられた。「みつや交流亭」がオープンして7年目の年に。

“ローソ(労働組合)がまちに飛び込んだ”

 みつや交流亭が生み出されるまでに、何人ものキーパーソンが登場する。その一人が故南野佳代子さん(タウン誌「ザ・淀川」の編集者)で、木津川計氏が「南野さんは足元を掘る。泉がこんこんと湧く」と評されたように、豊かな人的ネットワークを形成されてきた。その彼女をパネリストの一人に迎えて大阪市職(大阪市職員労働組合)主催の「市職まちづくりトークセッションin淀川」が2006年10月23日に開催された。パネリストは淀川を中心に市民活動をされている方々で、みつや交流亭を共に創り出していくキーパーソンとなる人たち。トークセッション開催の目的は「市民から信頼される労働組合とは何か。市民は大阪市やその労働組合に何を求めているのか。私たちは信頼回復のために何をなすべきか。大阪市職の運動の何を改めるべきか。その答えを直接市民からお聞きしたい」だった。出された意見は厳しい内容が続出。「職員はカウンターを越えて積極的に市民・地域の中に入っていくべきだ」と。

この企画をきっかけに、市民協働の拠点をつくることから始めようと、商店街の空き店舗を活用する案が生まれた。そして2007年6月若手組合員を対象とするシンポジウム「市職と市民のまちづくり〜淀川区地域集会“空き店舗を市民交流スペースに”」が開催された。当初、地域からは「なんでローソ(労働組合)が?」という疑問があったが、会合を重ねるうちに、商店街理事長が「面白そうやん、やってみよう」「商店街もロウソも地域とつながらなければ未来はないのではないか」という思いを抱くようになったと。

ロウソ側でも、木工や絵や歴史が得意という「一芸サポーター」に組合離れの若手が食いついてきた。交流亭開設までには、多くの課題や財政的問題があったが、地域の豊かな人材が次々と難問に挑みクリアしていった。面白いほどに、関わる人々が発掘されていく過程が、実名入りでいきいきと描かれている。2007年8月にオープンし、2010年2月には、「特定非営利法人(NPO)みつや交流亭」の認証を得て、理事会が自立的な運営を担っている。

<構想は大きく、活動はしなやかに>

 冒頭に紹介したように、地域の幅ひろい年齢層が集う「寄り場」となり、そこから数々の文化イベントが生まれた。「淀川芸術祭」の一環として「三津屋音楽祭」が催され、商店街の3か所に舞台と客席、フィナーレは三津屋小学校の体育館に移動して、大阪市音楽団有志によるプロの演奏で、児童たちのコーラスという、まさに地域ぐるみで芸術性高い文化が創りだされた。ほかにも企画はどんどん進化し、関わる人々も広がっていく。

 最終章の第5話「三津屋のオモロイ町人(まちんちゅ)たち」では、これらのまちづくりを担ってきた町人(まちんちゅ)たちへの軽快なインタビューで締められている。

 ちなみに「ヤカーリング」(=やかんをカーリングにみたてて点数を競うスポーツ)は、この三津屋商店街で発明され、今では世界大会も行われている。ヤカーリングの歌もつくられている。

 表紙も含めてふんだんに挿入されているイラストが面白く、どんな間取りになっているのかも、イラストが最後に組まれていて、思わず拡大コピーをしたくなる。

 ここまで読んでくると、現地に行ってから本の紹介をすべきでないかとの想いに駆られたが、少しでも早く、多くの人にお知らせするのが先かと思った次第。(発行日は2014年6月1日)(伍賀偕子)

<追記>
 この本は書店では手に入りませんので、みつや交流亭のwebサイトにアクセスしてお求めください。→ http://mituyakouryutei.jimdo.com/

もしくは交流亭現地へぜひお越しください。