『小企業・自営業がつくる未来社会―「いのち」と「くらし」のネットワーク』

          
 編者の「一般社団法人 関西中小企業研究所」は2010年6月に設立されている。(理事長=庄谷邦幸、本書では最終章=10章執筆)。
 日本の企業数の8割強を占める小規模企業の大半は、従業者が10人未満の小企業であり、その約6割が個人営業から従業者4人までの事業所である。
産業が「重厚長大型」から「軽薄短小型」に移行し、経済のサービス化・情報化が進み、省資源で環境を重視した持続可能な社会への関心が高まっている時代を背景に、規模の大きさではなく、質の高い経営が注目されるようになり、これまで、小企業・自営業が、零細・低効率・過多であるとされ、その存在(活動)意義については軽視されがちであった風潮が見直されるようになった。(「はじめに」から)

 本書では、このような時代背景の中で、「いのち」と「くらし」を基調にした企業社会に向けて、豊富なフィールドワークをもとに小企業・自営業の実像と特徴を明らかにし、14項目の「政策・施策提言」をしている。

2012年3月から10月にかけて、関西の70件ほどの小企業・自営業のフィールドワークを行い、4章でその実像に迫り、26事例を選んで特徴化している。目的意識が鮮明なので、その特徴化がわかりやすく、興味深い。「小さな企業が精一杯の努力をし、技術やノウハウを磨いている。伝統を受け継ぎながら、日々、創意工夫に努め、未来を切り開いている。無数の小さな企業が日本の経済を支えている。しかも大企業が主導する現代企業社会が失ったものを、しっかりと保持し続けている」という思いがフツフツと込み上げてきたと、書かれているが、豊富な事例から、読者にもその思いが伝わる書である。

 もちろん、それらの経営の困難な問題点を抜きに未来は語れないわけで、融資をめぐる諸問題(物的担保と連帯保証人)、開業・起業をめぐる問題、連携、協同・自助のネットワークの事例と課題、ICT(情報通信技術)、情報与信による新融資システムなど、その課題毎に章が立てられ、具体的に展開され、冒頭に述べた「14項目の政策・施策提言」に結びついている。

 「提言」の基調は、先にも述べた「いのち」と「くらし」だが、実現可能な展望として、イタリアが登場する。イタリア共和国憲法では、第3条で「すべての市民に労働の権利を認め、この権利を実行あらしめる諸条件を推進する」と謳い、45条に基づいて手工業(職人企業)を保護・発展させている。その実例は、日本の『平成19年版 国民生活白書』でもかなりのスペースをさいて紹介されている。行政による保護だけにとどめず、必ず、小企業・自営業による共同自助システムが稼働するようにセットされているそうである。

 本書のまとめは、―「競争と効率」は「暴走の危険」と背中合わせである。過度の競争から顧客や取引先を囲い込み、不都合なことは秘匿してしまう企業社会や、寡占と膨大な広告宣伝による依存効果を狙う経営とは決別しなければならない。そして、技能・実体・開示の社会に向かう。それを支え牽引するのが小企業・自営業である―と。(伍賀偕子:元「関西女の労働問題研究会」代表)

<書誌情報> 
小企業・自営業がつくる未来社会 / 関西中小企業研究所編 (晃洋書房A5判217頁)