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『東日本大震災後の公益学と労働組合』(公益叢書第二輯)

    現代公益学会編 (2014年9月/文眞堂)A6判220頁

 2014年7月に創設された「現代公益学会」が編纂した第2輯である。
 世紀の転換を前後する2つの大震災を機に、公益法人改革が進められ、「官による公益」から「民による公益の増進」に流れが大きく変わった。「現代公益学会」発足の辞は、この流れに対応するべく、公益・公益法人研究の総合化・体系化をめざす「公益学」の構築に挑戦するためとしている。
 第1部「東日本大震災後の公益法人および公益研究」、第2部「東日本大震災後の労働組合」の2部構成で、十名の論文で編成されている。執筆者は研究者だけでなく、NPO法人労働組合に携わる人、ジャーナリストなど、多彩である。

 第1部「東日本大震災後の公益法人および公益研究」では、巻頭論文(小松隆二)で、「公益法人の市民化・地域化に向けて」の歴史的な軌跡と課題が提起されている。
 「公益」の用語そのものはすでに平安時代には使用されており、公益に関わる活動も、公益団体として初めて法認された公益法人日清戦争直後の出発で、120年の歴史がある。日清戦争以前を前史として、今日に至るまでを3つの時期区分に分けている。その第3期が、冒頭に述べた2つの大震災後の、ボランティア活動などの公益活動の広範な広がりと、公益法人改革に始まる時代である。
 公益法人がめざすべき方向=市民化・国際化の前進に向けての課題について、「市民・地域・全体に向ける目」「市民化の推進、寄付文化の育成」の見出しで具体的に方向性が示唆されている。わがエル・ライブラリーを設置運営している「公益財団法人 大阪社会運動協会」も、提起されているいくつかの指標に照らして、常に自己点検が必要であると感じた。

 第2部「東日本大震災後の労働組合」では、6つの興味深い論文で、「公益的労働運動」のあり方を問うている。
 第1章「労働組合と市民社会―共益と公益をつなぐもの―」(鈴木不二一)では、「日本の労働組合が本当に役立っているのか」の問いは、雇用と生活条件の維持向上という視点だけでなく、国民経済や産業、企業の効率性との関連も含めて、複眼的視点から多面的考察を行うことが大切だとし、労働組合の本務とする共益的活動が、結果として公益に結びついていく道筋を示している。他者への共感を社会的連帯として組織化し、持続的結社の形で社会に埋め込んでいくことが、これからの日本社会の大きな課題となるだろう。日本の労働組合は、保有する運動資源を外に向かって開いていくことによって、その課題に応えていかねばならない。そのことは、社会運動体としての労働組合の再生の途に間違いなくつながっていく―と。

 第2章「公益的労働運動とは―総評労働運動という経験―」(篠田徹)では、「公益的労働運動という視点から、総評労働運動を事例にあげて、利己組織である労働組合がいかなる形で利他心や利他行為を社会的に喚起していったか、その仕掛け・仕組みを検証している。清水慎三氏の規定を紹介しながら、「戦後民主主義の空気」という公共財作りに邁進した「総評エートス」の果たした社会的役割を、1)地域連帯活動、2)春闘(国民生活の基準を民主的に更新する国民的年中行事にした)3)草の根労働運動の規範の浸透というように挙げている。いわば、総評運動の裾野の広さである。さらに、この裾野の広さを形成した労働文化という公共財作りに総評運動が果たした役割の検証の必要性が指摘されている。
 
 第3章以降は、非正規労働者が2,000万人を越え、労働組合の組織率が2割以下に低下している現在における、既成の労働組合の社会的存在が検証されている。
 第3章「連合の非正規労働者等に関わる取組み」(村上陽子)では、ナショナルセンターの連合が設置している「非正規労働センター」の努力が、地方のローカルセンターの特徴的な取り組みから、影響力拡大の方途を普遍化しようとしている。

 第4章「非正規の声は聞こえるか」(東海林智)では、2008年年末の「派遣村」で労働組合と初めて出会った派遣労働者の衝撃的な体験、東京メトロ売店の販売員の女性たちが、正社員と同じ仕事をしているのに、「契約社員B」という雇用形態ゆえに理不尽な差別待遇を受けていることへの人間としての怒り、非正規のみの労働組合を結成して、団交やストによって改善するとともに、労働契約法20条違反として、全国初の提訴をしてたたかっている聞き取りを通して、「労働組合の社会的役割」を問うている。

 終章(第6章)では、巻頭言で問題提起した同筆者が、「静かに一大転換期を迎えた労働組合」という括りで纏めている。そのサブタイトルが示すように、「職場から地域・社会へ、労使関係から地域・社会関係へ」と、目的意識的な変革を提起している。(伍賀偕子)