『私の労働研究』

 熊沢 誠(堀之内出版/2015年1月)A5判284頁
 エル・ライブラリーで定価2376円を2100円(税込)で割引販売中。近々読書会も開催予定です。

 労働研究の第一人者として根強いファン・読者をもつ「熊沢誠」(甲南大学名誉教授)の、半世紀にわたる研究軌跡を、自身の生活史も含めて集大成した書である。
 今まで熊沢著書や講演にあまり接する機会が少なかった人々にとって、著者の半世紀にわたる労働研究―労働者の日常の労働と生活の真摯な分析とそれに寄り添うべき労働組合のありよう―を追求した軌跡をこの一冊で学ぶことができ、さらに「日本の労働の現状と明日のありようを考える」ために、巻末の著書リストを追ってみたくなる書である。
 七章にわたる構成になっていて、一章は、自己の研究史を、初期・中期・後期の三期に分けて、問題意識、テーマ、考察と叙述の方法、著作の概要が述べられている。これは法政大学大原社研での講演記録であり、半世紀にもわたる研究成果と著作について、30頁に凝縮された明快な語りは、豊かな学びの手引きとなる。
 この一章とぴったり呼応して、自身の生活史から書き下ろされた終章は、熊沢著書を何冊も読んでいる人たちにとっても、新しい発見や興味が深まる内容である。
 二章は、若者の労働問題に深い関心を寄せる雑誌『POSSE』(堀之内出版)に13回にわたって連載された連作小論文集「われらの時代の働きかた」で、以下の11のテーマ。

  1. シューカツをめぐって
  2. なにが就職の「成功度」を決めるのか
  3. 非正規雇用とキャリア分断
  4. 流転の職歴
  5. 有期雇用を規制する必要性と可能性
  6. 正社員のしんどさの根にあるもの
  7. ノルマのくびき
  8. 人べらしの修羅
  9. パワーハラスメント論序説
  10. <被差別者の自由>のゆくえ―女性労働論の今日
  11. 産業民主主義と組合民主主義

 長年の研究と著作の深い内容が、短く凝縮されていて、まさに「日本の労働の現状と明日のありようを考える」導きの書であり、ぜひ若い世代に読んでほしいと願う。

 三章「公務員バッシング対抗論―橋下「改革」と公務員労働組合」は、大阪市の橋下政治批判を契機として、公共部門労使関係の日本的風土、新自由主義という季節、公務員労働運動のはらむ問題点とこれからの課題など、「公務員バッシング対抗論」を論じている。労働運動先進国と比較して日本における公務員労働運動の歴史からひも解き、公務労働のあり方を説く。橋下「改革」と新自由主義の誤謬を批判するにとどまらず公務員労働運動の基本的方向を示唆している。これも『POSSE』の2012年インタビュー記録だが、詳論は、わが大阪社会運動協会発行の『大阪社会労働運動史』第九巻で展開されている。

 四章〜六章は、著者のホームページから選ばれた文章である。
 四章は、労働・社会・学校・最近の体験に関する「エッセイ」で、「福島第一原発の復旧作業を担う人びと」は、事故直後の2カ月も経ていない時点で書かれているが、報道記事をもとに、事態をどう捉えるのか、労働研究者ならではの視点が提示されている。
 研究者としてだけではなく、「脱原発」を訴える市民デモを「わが街四日市」で呼びかけ、組織していった体験が、新鮮な気づきも含めて記されている。
 また、関西を中心に全国に会員をもつ研究会「職場の人権」について、1999年結成以来2012年まで代表を務めた著者とそのメンバーたちとが築いてきた軌跡と絆についても、「私の六〇代〜七〇代の研鑽の場はすぐれて『職場の人権』研究会であった」と述懐。

 五章は、4つの分野にわたる書物の批評と感想、著者の「読書ノート」からである。

 六章は、「映画ってほんとにすばらしい。数知れぬ映画体験は、私の研究スタンス、人間と社会への視点、生活思想、要するに私の発想のすべてに大きな影響を与えている」と述べる著者の映画評は、ホームページで多く語られているが、本書では、生きがたさを超えて凛然として立つ魅力的な女たちを活写した作品を選んで「スクリーンに輝く女性たち」として描かれている。

 冒頭にも述べたように、本書は、熊沢誠の労働研究の集大成であり、自身も「研究者としての私個人のほとんどすべてを語り綴る作品」と述べている。能力主義管理のもとでの労働者の日々の労働と人権に対するまなざし、そして今では「一般受けしない」がそれでもなお労働組合運動への熱い期待と励ましの想いが、そこはかとなく伝わり、何が自分にできるかを考えさせられる書である。(伍賀偕子)