エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)

ブログ記事の引用転載を希望される方は、https://l-library.hatenablog.com/about をご確認ください

『日本ボランティア・NPO・市民活動年表』

  大阪ボランティア協会ボランタリズム研究所監修
  岡本榮一/石田易司/牧口明編著(明石書店/2014年2月)750頁
 ※日本NPO学会の林雄二郎賞(最優秀賞)受賞作

「概観」の冒頭に「本年表は、市民(ボランティア)NPO活動に関わる総合年表としては、おそらく日本で初の年表である」と自負されている。B判750頁の圧巻が5年をかけて大阪で刊行されたことに、まず嬉しくなり、多大なご尽力に心から敬意を表したい。
 8頁の口絵の「写真で見るボランティア・NPO・市民活動の歴史」には、思わず見入ってしまう写真がピックアップされている。わがエル・ライブラリー所蔵のレアものも3点(神戸労働学校での久留弘三の講義風景、戦前のメーデー風景、近江絹糸人権争議を伝承する『解放への叫び』)も掲載されている。いずれも各分野のエポックに位置づくような選択である。

◆取り上げられている分野は、以下の14分野。
―(1)社会福祉(2)医療・保健・衛生(3)教育・健全育成(4)文化(5)スポーツ・レクレーション(6)人権擁護(7)男女共同参画フェミニズム(8)まちづくり・災害復興支援(9)国際協力・国際協力・多文化共生(10)平和運動(11)環境・自然保護(12)消費者(保護)運動(13)支援組織・支援行政(14)企業の社会貢献―である。

◆対象とされているNPOの範囲
 NPO法人を含むボランティア団体や市民団体など「最狭義のNPO」を中心に、生活協同組合や一部の社会福祉法人、財団法人などとされている。解説図では、最広義のNPOとして「労働組合、協同組合、同窓会・・・」とされているが、分野ごとに見ていくと、狭義の意味での市民運動だけでなく、歴史的なエポック、普遍性をもつ事象は、労働組合運動からもピックアップされている。たとえば、総評が呼びかけた「10・21国際反戦デー」(1966年)について、(10)平和運動の分野で、=労組の連合体の取り組みとしては世界初:翌年から「国際反戦デー」として定着=というコメント付きで記述されている。

◆全事象ごとに2〜3行の的確なコメントが付けられていて、その事象の歴史的な意義が理解できる。
◆年代は明治期(分野によっては、江戸末期から)から現代まで。

◆その時代を映す活動をとりあげて「コラム=はじまりのミッション」という半頁近い丁寧な解説が119項目掲載されている。たとえば、「はじまりのミッション53〜夜間中学運動と高野雅夫」では、夜間中学の存在の深い背景が語られ、高野に代表される義務教育不(未)就学の人々の人間性を取り戻す運動が語られている。
 「年表」というのは、何かを調べたい時のために常備しておく書と思いがちだが、この119項目の「ミッション」を読むだけでも、大いに学べる書である。いかに広範囲の分野で活動または研究している人でも、この14分野すべてに通じているわけではないだろうから、自分の関わっている得意とする分野でどのような事象がピックアップされているのか、「ミッション」の解説が的確かどうかを調べるのも興味深いし、あまり知らない分野なら、絶好の学習書となるのではないだろうか。
 ちなみに筆者も (9)国際交流の分野において、「ミッション83」で取り上げられている「アジア女子労働者交流センター」の解説を熟読してみた。1983年にこのセンター開設(塩沢美代子代表)をエポックとして取り上げていることには大いに頷くのだが、「日本国内に滞在・在住する外国人女性の人権NGO」という規定と解説には、ちょっと不十分さを感じる。この交流センターの活動の歴史的な意義は、日本も含めて多国籍企業がいかにアジアの女子労働者の人権を侵害し虐待しているかを、CAW(アジア女性委員会)の創設者塩沢美代子が体をはってアジアで切り拓いたネットワークの情報と支援連帯活動を日本に広げ、その活動を支えるNGOを日本で創設したということだと思うのだが、どうだろうか。
 わずかな知識で不十分さを指摘するのは、口幅ったい気がするが、編者の結語「引き続きこの年表のさらなる充実、正確化に努めたいと思っている」に甘えてあえて一言。

◆この編纂プロジェクトが大阪発であることから、ピックアップされている事象が東京中心ではなく、地域性をくぐらせたうえで、エポックにふさわしい一般性・歴史性を抽出している見識の高さに脱帽する。いささか我田引水になるかもしれないが、 (7)男女共同参画フェミニズムの分野で―1979年3月 国際婦人年大阪連絡会が『出産白書』発表=産む女の側から出産を考える―という記述は、関わった者の間では、そのコメント通りで、陣痛誘発剤の問題などの提起や訴訟などの先駆けだったと自負しているが、全国的な資料の中で取り上げられた記憶がないので、本年表で取り上げられていることに驚いた。

 他にも、人権教育・解放教育のエポックとなった大阪での矢田教育差別事件(1969年3月)や、1977年7月大阪での「乳幼児発達研究所」(後の「子ども教育情報センター」)設立等、関西での出来事が、ローカルな出来事にとどまらず、歴史的にどのような位置を占めるのかの編者の見識がうかがえる。関西だけでなく、他地域の人々も同じような思いを抱かれるのではないだろうか。
 筆者もこの分厚い「年表」にしばしのめり込んでしまった。(伍賀偕子)