読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

『お〜い!おーちゃん―自閉症の弟と私のハッピーデイズ』

 廣木佳蓮・廣木旺我著(黎明書房/2015/126頁)


 著者廣木佳蓮(ひろき・かれん)さんは、1995年大阪市に生まれ、現在奈良女子大学文学部人間科学科在学中の女性で、「日本でインクルーシブ教育を普及させ、弟のような社会的弱者と言われる人たちも、自分らしくのびのびと生きられるような社会の実現を切望している」。
 共著者廣木旺我(ひろき・おうが)さんは、佳蓮さんの1歳下の弟で、3歳で発達障がい、7歳で自閉症と診断されたが、保育所から高校まで地域の普通学校で学び、現在は大阪市立デザイン教育研究所在学中で、動物と恐竜が大好きでよく絵に描いている。絵を描いて生きていけるよう日々修行中。(著者紹介から)
 本書は、自閉症と診断された弟(愛称お〜ちゃん)と小学校から中学校まで、地元の同じ学校に通い、その日常生活と周りの子どもたちとの交流、先生・支援教員さんたちの支援などについて、のびのびとそれでいて細やかな観察とを、題名のサブタイトルにあるように「ハッピーデイズ」として描いている。
 グラビアには、アーティストのお〜ちゃん作品が11点配置されていて、旺我さんの才能が窺がわれる。また、各章ごとに、お〜ちゃんの日常の行動を描いた4コマ漫画やイラストがたっぷりと挿入されていて、自閉症の人達が直面するだろうと想像する「困難性」や重さを感じさせない、「みんな違って、それでいい」の世界を共有させてくれる。
 本書には、「自閉症とは」の定義や一般化した記述は、まったくなく、「お〜ちゃん、保育所へ行く」「お〜ちゃん、小学校へ行く」「お〜ちゃん、中学校へ行く」「お〜ちゃん、高校へ行く」「お〜ちゃん、専門学校へ行く」「お〜ちゃんのこれから」の章立てで、成長していくお〜ちゃんのこだわりや好みなどのユニークな個性と行動を、お姉ちゃんはじめ家族、「大好きな学校」の仲間や先生たちとの触れ合いを通して、お〜ちゃんの個性として描いている。
「お前の弟、ガイジやろ」とかのからかいや差別的対応もないわけではないが、お姉ちゃんは、「障がい者」や「自閉症者」という大きなくくりで見ないで、「お〜ちゃんだから」の視点で対してほしいと述べている。
インクルーシブ教育についても、おーちゃんの入学によって、「やっかいのタネ」を抱えるという学校側の当初の心配に対して、

― 障がいのある子をそばで見ていること自体に意味があることだと考えています。・・・本当は誰でもやっかいのタネになる可能性があるのです。・・・一人ひとりが見方を変えていけば、やっかいのタネから何か気づいたり分かったりして、花を咲かせられるかもしれません。それは、大切な「学び」だと思います ―と、基本的な視点を提起している。

 お〜ちゃんがいてどのような運動会や修学旅行、合唱大会になったか、周りの人たちが、お〜ちゃんの存在によってどう変わっていったか、ケンカをしていると、お〜ちゃんの「にっこり、にっこり」という声にどれだけ救われてきたかなどが、ほのぼのと描かれている。自然発生的にそのような関係が築かれたのではなく、先生たちや支援の人たちの誠実な努力や工夫があったことも伝わり、同時にそれらの経験によって、多様性のある豊かな社会が形成されていくことも、しっかりメッセージを送っている。
 そして著者は、「ハッピーデイズ」を描きながらも、「まだまだ生きづらい社会ではないか」と、きっちり現状を告発している。

 「お〜ちゃんのこれから」では、現在でも「重度の障がい」扱いになっているお〜ちゃんだが、普通学校で学び築いた多様性を認め合う関係を、「とても幸せなことだったし、理想的だったと思います」と著者の姉は振り返っている。
おーちゃんのアーティストとしての活動は、多方面から注目され、2015年には個展も開いており、同年の世界自閉症デー・ライトアップブルー点灯式にも参加していて、「夢は世界に出かけて絵を描き、周りのみんなをハッピーにできるアーティストになること」を現実に近づけている。

 旺我さんの活動の一環として、『山口正城と工芸学校の教育―大阪のバウハウス』も紹介したい。彼が在学している大阪市立デザイン教育研究所で出版され、この『山口正城と工芸学校展』プロジェクトに廣木旺我の名も連ねられている。
 山口正城(1903−1959)は1926年にデザイン教育研究所の前身である大阪工芸高校に教師として赴任し、当時めずらしかった「バウハウス教育」を実践した人物である。本書は日本のデザイン教育の過程を学べる書であり、ここから多くの人材が生まれ、おーちゃんもまた夢のアーティストへの道を歩んでいる。(伍賀偕子)