『68年5月とその後―反乱の記憶/表象・現在』

 クリスティン・ロス/訳:箱田徹( 航思社/2014/476頁)

 著者のクリスティン・ロスは、ニューヨク大学比較文学部教授で、専門は19世紀20世紀フランス文学及び思想であり、邦訳された共著に『民主主義は、いま』(以文社)がある。
 訳者の箱田徹は、京都大学人文科学研究所研究員で、専門は社会思想史で、著書に『フーコーの闘争<統治する主体>の誕生』(慶應義塾大学出版会)がある。

 「五月革命」と伝えられる「六八年五月」を、著者は、次のように概括する。

フランス史上最大の大衆(マス)運動、フランス労働運動史上最大のストライキ第二次世界大戦後の過剰開発国が経験した唯一の「総」反乱である。それは工業生産の伝統的な基幹部門にとどまらず、サービス、通信、文化など社会的再生産を担う全領域の労働者が参加した初のゼネラルストライキだったのである。(略引用者)五月上旬の学生による戦闘的なデモを受けて、フランス全土で職場放棄が続々と発生した。フランスは5〜6週間にわたり完全なマヒ状態に陥った。60年代には世界各地で―メキシコやアメリカ、ドイツ、日本などでも― 反乱が起きた。だが、フランスでのみ(ある程度はイタリアも)、支配的イデオロギーに対する知的拒否と、労働者の反乱が同時に発生し、かつ両者が「出会った」のだ。地域と職域の両面で急拡大したゼネストは既存の分析枠組みをことごとく踏み越えた。36年に人民戦線が呼びかけたときの3倍以上の労働者が、またたく間にストライキに参加したのである―と。(太字は引用者)

 発端はパリ、学生が大学制度の改革を求めたのに対し大学側が拒否し,大学側の強権発動に対する学生運動に端を発し,フランス全土に広がった社会変革を求める大衆運動。
 著者は、50年代末のアルジェリア独立戦争から、21世紀のオルタ・グローバリゼーション運動に至る半世紀のなかで、フランス現代思想と社会運動を俯瞰しつつ、インタビュー集やビラ、ドキュメンタリー映画、小説など、膨大な資料を渉猟して描く、そして、「革命」のその後(アフターライフ)と、これまで看過されがちだった労働者の声、工場潜入・農村潜入した活動家の声も丹念に拾い上げる。
 著者は、「68年5月」が、その後さまざまに描かれて、どのように攻撃されてきたのかを語っている。

 出来事としての「5月」が、みずからを抹殺しようとする動きにどのように抗してきたのか。「5月」の消去をもくろむ社会の側での忘却と私物化、あれこれと解説する社会学者、そして当時の記憶を独り占めしようとする元学生運動指導者に対して、「5月」がその出来事としての重要性を主張し、あるいは確立することで、今日までいかにして持ちこたえてきたか。

 本書がたどるのは、社会的記憶と忘却/捏造を具体的に表現するものの歴史である。なぜなら「5月」の記憶の管理――出来事の政治的意義が解説や解釈で骨抜きにされるプロセス―こそ、40年以上を経た現在に「1968年」が提起する歴史的問題の核にあるからだ。
 本書は、近年の「68年5月」論では、基本文献の一つとされ、フランス語とスペイン語にも翻訳されている(訳者解説)。

  • 「<1968年5月>とはまずもって平等へのすさまじい情熱だったと私は思う」ダニエル・リンデンベルグ
  • 「重要なのは、人々がまさかと思っていたところで、行動が起きたことだ。今回起きたのだから、また起きるだろう」ジャン=ポール・サルトル 1968年

 「未来に向けて過去の反乱をいまここで想起する作業」の重要な一助としたい書である。(伍賀偕子 ごか・ともこ)