エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)

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『なぜユニオンをつくったのか』

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長橋 淳美 著 (2016年3月1日/A5版 40頁) 

<第1章 ユニオン誕生>
 このパンフレットは、大阪府富田林市職員の少数派組合の「富田林市職員ユニオン」の代表を結成時の1996年3月から2008年まで務めた、長橋淳美さんの個人的著作である。著者は、ユニオン結成の中心を担った者として、新しい情勢に応じてユニオン結成の理念を再確認し、修正するところは修正し、活動をさらに発展させることを願って書いたとしている。

<第2章 ユニオン結成の背景>
 著者によるとユニオン結成の一つの背景は、いわゆる労戦統一のなか、自治労の主流が連合に加盟する一方、富田林市職労も加盟する衛星都市職員労働組合は連合加盟に反対し、全国労働組合総連合に加盟、結果として市職労反主流の居場所がなくなったことにある。
 背景の第2は、バブル崩壊と行政改革のなかで、(市職労が押し進めるような)高い賃上げ要求が現実的でなくなった、と著者は指摘する。
 第3は、男女共同参画、障がい者雇用など、一律な労働条件引き上げの枠に収まらない課題が出てきたことだ。

<第3章 新しい組合運動の模索>
 ユニオンは、このような背景から生まれたので、新しい課題や従来からの課題も新しい視点で取り組むことになる。
 まず賃金闘争である。著者は賃金闘争を、組合運動にとって一番大きな課題であり、賃金が労働力の再生産のための費用とするなら、生活できる賃金水準を求めて組合運動するのは当然のことと位置づけた上で、激しい地方公務員バッシングに直面する中で、社会情勢、民間賃金の動向、地域性等を十分に分析し、誰もが納得できる賃上げ水準を掲げて運動をすべきとしている。その代わり、掲げた要求は是が非でも実現するという覚悟と運動が必要、としている。
 人事政策への提案と改革運動。90年代から2000年代、人事政策に対して組合の側から提案することはタブーのようなもので、運動の仕方も当局の提案に反対していくというのが普通であり、当局の側も人事政策は組合には介入させないというのが一般的な態度だった。しかし、ユニオンは人事政策についても積極的に提案していくという方針をとった。自治労の四原則(公平・公正、透明性、客観性、納得性)、二要件(労働組合の関与、苦情処理機関の設置)に基づき当局に公正な人事評価制度を求めたのである。
 また、人事制度改革でユニオンが最も力を注いだ課題が「常勤嘱託」職員の正職員化だった。富田林市では、十分な規定を設けないまま人手不足を安易に嘱託などで穴埋めしてきた。その結果、正職員と同じ仕事を同じ条件で行っているのに、賃金・手当・職場などで差別的な扱い受けている「常勤嘱託」が生まれてきた。ユニオン結成時、組合員の3分の1が常勤嘱託だったので、この正職員化は一貫して中心課題だった。その結果、結成以来16年の闘いを経て、2012年、ようやく常勤嘱託組合員全員の正職員化を実現したのである。
 ユニオンは、さまざまな新しい課題にも取り組んできた。男女共同参画としてはとりわけ「お茶くみ問題」への取り組みが多くの反響を呼んだ。他に、障がい者雇用、市民との連携などでも成果をあげている。

<第4章 労働組合にとって大切なこと>
1.誰もが職員として平等な権利を持っているということ(公平性)
 「組合組織の中では、まったく対等な立場で議論し、行動し、公平な人間関係でなくてはならない。そのことが、組合としての視野を広げ、偏見のない正しい方針を導き出し、運動のエネルギーを引き出すことにつながるからだ。」

2.たくさんの職員に支持され支えられるということ(連帯)
 「ユニオンは立ち上げから圧倒的少数の組合であった。・・・しかし、ユニオンの活動をやっていて、市役所の中で孤立しているという感覚は一度も持ったことはなかった。市職労の組合員でも、ユニオンの事務所に来ていろいろと職場の不満など語っていく職員や、ユニオンの機関紙に投稿してくれる職員も少なからずいた。年末に組合員以外の職員にカンパを募るとバカにならない金額が集まった。」

3.当局に対抗できる力を持つこと(対抗権力)
 「公務員の職員組合は、その権利が制限されているとはいえ、当局に対して、ものを言い、交渉することが法律で認められている。組合の交渉課題は、基本的に賃金・労働条件だが、市の政策の中身、実施方法は即職員の労働条件に跳ね返ってくるから、ある意味どんな課題でも交渉の対象にすることができる。
 もちろん、それは労働組合のエゴを追求するためではない。職員の意見、市民の意見を反映させた働くものの立場からの交渉だ。」(ボランティアN)