『帝国ホテルに働くということ 帝国ホテル労働組合七〇年史』

奥井禮喜著(ミネルヴァ書房/2016年7月/四六判276頁)、別冊資料編あり

 

 「帝国ホテル労働組合」は、1946年5月21日に誕生し、総評(日本労働組合総評議会)傘下、今は連合(日本労働組合総連合会)を構成する「サービス連合」傘下の、組合員1,744名(2015年時)の企業内組合である。

 本書は、結成70周年を迎えて、「みんなでつくる運動史」という提案のもとに、単行本として刊行されて、この種の書としてはめずらしく、一般書店の店頭に並んでいる。

 執筆者は当該労組の関係者ではなく、人事・労働問題のコンサルティングや執筆活動をしている「外部」の人であり、組合運動は「おもしろくない」という気分に支配されがちな昨今の状況下で、本書は「おもしろく書く」という当該労組の意図と願望が追求されていて、「おもしろい」「読みやすい」書となっており、社会的存在としての労働組合のあり方を考えさせられる内容となっている。

 別冊の資料編は、通常の労働組合の年史に共通の、年次毎の大会スローガンや組合員数、役員名、主要な労働条件の進展、機関紙の主要記事などが、50年史発行から現在までの20年間を通して綴られていて、組合史として欠かせない資料となっている。

 本編は、― わたしたちは、①いまここに在る(現在の認識)②どこからきたのか(過去の再検証)③どこへ行こうとするのか(未来への目標)というねらい(「はじめに」から)のもとに、2部構成になっている。

・第1章 組合の力・一人ひとりの知恵と誇り―組合員100人・100時間インタビュー

・第2章 みんなで作ってきた七〇年の運動史

 第1章の100人インタビューでは、組合とは、組織・機関を意味するかのような風潮に対して、主人公は組合員であり、「主人公が主人公意識を失えば、大衆運動は力にならない」という信念を具現化する志が、登場者一人ひとりの人生に繋げて「帝国ホテルに働く意味」の語りを惹き出している。仕事、労働を、生活の糧のためだけでなく、自分自身の人生を作っていくための仕事、一人ひとりの主体が問われる労働組合との関わりが、ホテルのあらゆる職種の人びとの発言を通して語られている。それらの主張は、決して「帝国ホテル」という一流ブランドだから成り立つというというのではなく、登壇者が共通に語る「ホテルパーソン」としての気風、労働者意識、ホテルの地域で果たす役割にまで普遍化するインタビュアーの意図が伝わる。

 ふんだんに掲載されている写真も、大会や集会で先頭に立つリーダーの姿ではなく、ホテルの業務を担っている人びとの労働の姿を丹念に追っていて、訴えるものがある。

 第2章は、帝国ホテル労組が真の意味で「労使対等」を実現していく過程の記述なのだが、時代背景がコンパクトながら的確な解説で、学習テキストとしても活用できる。

 それ以上に、労働組合の主人公である一人ひとりの組合員、「自立人間」をめざす人びとを支援する労働組合のあるべき像についての著者の哲学が伝わる展開となっている。

― 「労働組合は、一人ひとりの人生に肉薄する努力が問われる」「労使対等というのは、被雇用者が働くことを通して、職場における民主化を実現していく課題である」― と。

 もちろん非正規の人びとへの連帯も含めた追求となっている。

 「帝国ホテル労働組合の誇らしい気風(エートス)」を謳いあげた書であり、「働く意味、人生の意味、そして労働組合の可能性へ」(水野和夫・法制大学教授の推薦の言葉)導いてくれる書となっている。組合史編纂の手法としても、興味深い。(伍賀偕子(ごか・ともこ):元「関西女の労働問題研究会」代表)