エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)

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『大阪安保50年史』

 (安保破棄・諸要求貫徹大阪実行委員会 発行/2016年3月26日/A5版 本文330p, 年表27p)

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 本書は、「安保破棄・諸要求貫徹大阪実行委員会」と日本共産党の立場から、安保問題への取り組みや国政・地域での選挙などについて述べたものである。また、集会動員や選挙運動を重視し、その叙述に多くの紙幅が割かれているのが特徴である。

 1951年~1964年を「大阪安保の前史」としこれに第1章(15ページ)をあて、続く1965年~2015年の約50年間に各年ごと順番に3~9ページずつをあてており、目次にもそれが明示されている。別冊の年表とあわせ、通史的な読み方に便利な編集になっている。また、各年3~9ページも書かれているということからわかるように、それぞれの時期で特徴あるたたかいが詳細に述べられている。

 長い運動の歴史を振り返るだけでもかなりの労力が必要な作業と思われるが、その過程をわかりやすく読みやすい図書にしてまとめられた関係者の努力は賞賛に値する。

 その一方で、いくつか残念な部分も指摘しておくと、「参考文献」として約1ページがあてられているが、本書と合わない文献もある。たとえば、山川出版の「新版 世界各国史」シリーズの『日本史』はそれ自体は良書だが、叙述対象期間が長すぎ内容も包括的すぎるため、「安保」関連の叙述は全体のほんの一部にすぎない。他方、テーマを「安保」に絞り込んだ文献は、今では入手しづらい機関紙類を除けば二冊、さらに回想録を除けば一冊しか「参考文献」とされてない。適切な書籍はまだまだたくさんあり、もっと採用しても良いのではなかろうか。

 もう一つ残念な点は、誤記が多いことである。

 本書は、独特の時期区分を採用している。「はじめに」によると、
「1 1951―1964年(大阪安保の前史)
 2 1965―1979年(革新高揚期、安保体制への挑戦)
 3 1980―1990年(社公合意・革新統一破壊のもとで)
 4 1991―2010年(安保新段階のもとでの矛盾の激化)
 5 2011年以後   (3・11以後、広範な共同への発展)」
とあり、これがそのまま本書の章立てとなっている。「はじめに」ではその理由も以下のように述べている。

「本書は安保破棄大阪実行委員会の創立を出発点としている関係上、65年以前と以後としました。
 本書は73年の高度成長の終焉を画期としていないことと、1980年を区切りにしているところに特徴があります。…安保体制をめぐる対抗関係を重視したことから、73年ではなく80年を区切りとしました。…80年の社公合意は安保体制のあり方そのものだといっても過言ではなく、以後の政治闘争を大きく左右する役割を果たしたからです。」
 「はじめに」ではまた、「安保体制打破よりも緩やかではあるが、より根源的な課題で、広範な共同をつくりあげる展望が開けてきました」とある。

 本書を編纂する過程で、同会の関係者もこの点について次のように述べている。

「こうした積み重ねがいまの安保法制=戦争法反対の若い世代、ママの会、保守層のみなさんの広大なたたかいに引き継がれていることに、感慨ひとしおです。いま、個人の尊厳をかけたたたかいとして構築されています。労働組合や団体で「安保廃棄」の旗を掲げてきたこととは違います」(大阪安保ホームぺージより)

 今後の「展望」については巻末の2015年の最後にも書かれている。「安保破棄・諸要求貫徹大阪実行委員会が50年を経過したもとで、かつてほどの求心力や基盤が弱くなったことは否めない。…安保破棄の課題を自覚的にすすめる大衆組織の意義はこれからも必要である。新しくかつ広範な国民運動に寄り添い参加して、その自らの目的を果たす役割は変わらない。」

 本書は2000円+税で販売もされているので、興味のあるかたはぜひ、「大阪安保」のWebサイトをご覧いただきたい。大阪安保ホームページ (ボランティアN)