『戦後教員組合運動の地域社会史的研究』

戦後教員組合運動の地域社会史的研究 :大教組所蔵文書の史料論的検討を通じて

 森下徹編著  2017.3  244p

(2014年度~2016年度科学研究費助成事業基盤研究(C)研究成果報告書)

 

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 本書は、大教組(大阪教職員組合)が所蔵し、未整理のまま死蔵・廃棄されかねない状態であった大量の文書類を著者たちが「救出」し、目録を採録して資料の調査研究を行った成果を公開するものである。

 この資料整理と研究プロジェクトは、「大阪教職員組合(以下、大教組)が所蔵する段ボール70数箱におよぶ未整理文書群(以下、大教組文書)の史料論的検討を通じて、地域社会との関係を重視して、戦後教員組合運動の展開を多面的実証的に解明する」(科研費データベースより)ことを目的として文部科学省の助成を受けた。そして3年間の研究の結果、5885点の資料目録と解題が世に出された。

資料整理と史料論的研究のために、9名からなる「大教組文書研究会」が組織され、研究会メンバーは資料全点の目録化を目指して、資料修復・中性紙の封筒への詰め替え・写真撮影などを行った。さらに、資料調査のために関係者からの聞き取りや、他地域の教組資料の調査にも赴いた。

 まず本書の内容をかいつまんで紹介しよう。本書は3部構成で、第1部の「目録編」が全体の7割近くを占める。第2部「論考編」には森下氏のものを始めとして、7本の解題・研究報告が掲載されている。第3部「聞き取り調査編」は大教組関係者4人のインタビュー概略と、本研究会のメンバーによる思い出話などが掲載されている。

 では1ページ目を開いてみよう。第1部の目録の冒頭に目録規則及び全体の概要説明などの、<アーカイブズの記述と編成>にかかわる記載がない。原秩序を尊重したというレコードの並びは年代順や組織構成に沿った配列が行われていないため、一瞥しただけでは全体像がわかりにくい。pp.174-175に「大教組文書の概要」が掲載されているのだから、これを冒頭にもってくればよかったのではないか。

 第2部の森下氏による「大教組文書の整理と文書軍の概要」は、本資料群の救出から整理にとりかかる過程のすぐれたドキュメンタリーである(博物館ではこれを「ドキュメンテーション」と呼ぶ)。見捨てられそうな資料を救いたい、後世に伝えたいという願いを持った大教組書記局員・松浦由美子氏の必死の訴えを受け入れた森下氏たちの作業過程は、「アーカイブズあるある物語」とも呼ぶべき涙ぐましい努力の跡である。駐車場の片隅で大量の段ボール箱に埋もれながら作業する様子が写った写真を見ると、思わず嘆息してしまう。アーキビストたちのこのような地道な努力がなければ、史料は日の目をみないのだ。

 この資料群が1959年の勤評闘争を中心とする大教組運動の一級の資料であることは間違いなく、また、単に一労組の運動ではなく、地域ぐるみの社会運動として展開された教組運動の歴史を跡付ける一次資料である。

 だが、課題も残されている。まず、これらの資料が現在、アーカイブズ機関で公開されていないことは、市民に拠る利活用の途を狭めることになる。第2に、日教組の分裂という対立がいまだに尾を引き、資料が全労連と連合側に分かれて存在していること。第3に、それゆえ、全国のさまざまな場所で保存されているであろう教組資料の全体像がつかめないこと。

 第3の課題を解決するために、本研究会では他府県の教組資料の調査も行っている点が評価できるが、まだまだ全国規模には及ばない。

 ともあれ、できていないことを数えて悲観的になるよりも、この労作目録が出版されたことを喜び、これを嚆矢として研究が進むことを願う。あとは、データベースをWebサイトで配布されるよう要望したい。

 最後に、本事業に対して当館が協力できることがあれば助力を惜しまないことを述べさせていただく。将来公開予定の当館所蔵「大阪府立旭高校勤評闘争資料」との横断データベースの構築など、協力できることはいくつもあると思われる。(谷合佳代子・当館館長)