『女・オルグ記』

『女・オルグ記 ~女性の自律と労働組合運動のすそ野を広げて』伍賀偕子著(ドメス出版/2016)

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  上梓してから1年以上たつ自著の紹介をさせていただきたい。

 本書は、総評*1の「主婦の会オルグ」が、「女性の自律と労働組合運動のすそ野を広げる役割」を担った歩みを、7名のオルグ聞き書きを中心に掘り起こしている。

 総評が1956年に創設した「オルグ制度」は「総評運動の歴史的財産」と評価されており、組合員一人年間3円の資金拠出によって全国90名の「中小企業対策オルグ」が配置され、組織化の任務に専念した。1959年には「主婦対策オルグ」「青年婦人対策オルグ」が新たに配置された(登場する7名の「主婦の会オルグ」全員が「婦人対策」を兼務)。

 1960年、総評は総評組合員の家族(主として配偶者)を対象に「総評主婦の会」を結成し、その組織化と活動を切り拓く任務として、「主婦対策オルグ」を配置した。主婦会や家族会は、それまでに三池闘争や日本製鋼室蘭王子製紙争議などの長期争議を労働組合と共に闘いぬいたいくつもの先進例があったが、総評が全国的にまとめて、「労働組合運動と国民的共闘の結節点=結び目」として位置づけて、「総評主婦の会全国協議会」を結成したのだった。

 総評主婦の会のスタートは、「合理化に反対し、お父さんのいのちを守る」「家計簿の赤字から春闘を支援する」のスローガンに見られるように、あくまで労働組合の支援であり、いわば労働組合の「補助組織」的な位置であったが、主婦たちが家計の赤字を埋める内職やパートに従事する中で、「働く主婦」としての自らの要求、「当事者自身」の要求を自己主張する運動体へと転化していった。「内職」というインフォーマル・セクターの問題点を可視化して社会問題化させ、「家内労働法」を制定させ、家内労働行政を労働省(当時)と都道府県に確立させていった。その発展過程は総評主婦の会主催の「内職パート大会」のあゆみとして、本書2章で検証している。

 総評主婦の会の存立基盤は、あくまで「男性稼ぎ手モデル」のシステムにおける性別分業を前提にした「主婦」という立場であった。しかし、上記の運動過程で、第二次フェミニズムの高揚や国連婦人の十年運動の影響も受けて、第14回内職・パート大会(1978年)では、「男女平等と労働権確立」を掲げるに至ったのである。

 さらに、日常の暮らしのさまざまなひずみや矛盾に対して、そして、子どもたちをめぐる環境の改善など、地道に地域で活動するなかで、政治の仕組みや諸矛盾・理不尽さを生活者の視点から追及し、自らの生き方を追求する女性として自己変革していく過程を歩んだ。その過程に、主婦の会オルグがぴったりと寄り添って、会員のエンパワーメントを共有すると共に、オルグ自身も学び、自己変革をとげていった。職業としてのオルガナイザーとは言え、最初から訓練されていたわけではなく、その多くは、主婦の会運動で共に学びあうなかで生み出された仲間であった。

 それらの過程は、運動領域としては、食管制度を守る運動であり、公共料金・諸物価値上げ反対運動であり、子どものしあわせと民主教育をすすめる運動であり、きれいな水といのちを守る合成洗剤追放運動であり、平和と民主主義を実現していく運動の一環としての選挙闘争等々、まさに、総評が主婦の会に求めた「労働組合運動と国民的共闘の結節点=結び目」、いわば、総評運動のすそ野を広げる役割を担ったと言える。

 表紙の袖に、竹中恵美子・大阪市大名誉教授と篠田徹・早稲田大学教授のお二人が過分な「推薦のことば」寄せてくださっている。

 竹中氏は― 総評解散から四半世紀を経たいま、一般性豊かな総評遺産の規定がされてきた。しかしこれらいずれの論文にも、「総評主婦の会」や「婦人部運動」についての言及のないことに気付く。・・(略)・・労働運動フェミニズムの立場に立って、・・(略)・・新たな開拓分野にメスを入れた意欲溢れる書である― と述べられている。

 篠田氏は― 総評労働運動は、職場から街頭まで、政治経済から社会文化まで、戦後民主主義のすそ野を広げた。では家庭や家族にはどうだったか。総評についての数多の記録のなかで、ここはなお暗がりだ。本書はそこに光を当てた。この一筋の光が、これから総評や労働運動のみならず、日本の戦後を作った女たちを明るみに導く― と推薦されている。

 現在の労働運動において、低賃金で不安定な非正規労働者が圧倒的に増え、家族も構成できない厳しい状況下で、労働者の家族を組織した歴史がどれほどの意味をもつのかは、いささか懐疑的にはなるのだが、「国民的共闘の結節点」を追求した総評運動の軌跡から、「社会的労働運動」をめざす視点を探りたいというのが、筆者の願いである。

(伍賀偕子〈ごか・ともこ〉:元「関西女の労働問題研究会」代表。元総評大阪地評オルグ

*1:日本労働組合総評議会」の略称で、1950年7月に結成された労働組合ナショナルセンター。1989年解散