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『日本における社会改良主義の近現代像 ―生存への希求』

 玉井金五・杉田菜穂著(法律文化社/2016年11月/A5判292頁)

 本書は、人口・社会問題を軸に、戦前戦後における社会改良主義の学問的鉱脈を丁寧に探索して現代と対峙する、社会政策論の体系的な専門書である。11の章と2つの補章から構成されているが、それぞれが独立の共同執筆論文なので、専門書は苦手でも、関心のある部分から読み始めても、本書の前提となる方法論に到達できる。

 書名の「社会改良主義」については、新自由主義に対して社会民主主義的見解が対置されるが、1897年発足の社会政策学会は、その学会趣意書(1900年策定)において、「社会改良主義」を標榜してきたし、実際の日本の政策・制度は中間的な社会改良主義的な考えに基づいて運営されているのだから、その中身を厳密に精査して現代的課題に立ち向かいたいというのが、本書の立場である。改良志向の社会政策という分野で論陣を張った者を中心に光をあてている。思想・学説と政策・制度の間の距離を見極めつつも、その密接な関係性を、日本の社会政策の歩みとして丁寧に検証している。

 日本社会政策論の系譜は、<経済学>系と<社会学>系に分類され、<経済学>系の象徴とも言うべき大河内一男の社会政策論が、労使関係や労働問題を軸にした研究に大きく影響を与えたことは周知のことであり、本書で改めてその影響の広さ・深さを学ぶことができる。だが、本書では、これまでの社会政策論史において論及が少なかった<社会学>系社会政策論が果たしてきた役割を戦前まで遡って発掘して再定置することに重点を置いている。その過程は、「人口問題と社会政策」の系譜とも言いかえられるとしている。

 目次を以下に全部記載するのは、本書がいかに体系的に構成されているか、個別には知られている研究者が日本社会政策論史においてどのような系譜に位置づくのかがわかって読みたくなると思うからである。例えば、筆者の関心から言えば、森本厚吉の消費経済論が、どのように位置づいているのか、家政学ジェンダー研究において、欠かすことのできない先駆者の一人であったことが理解できた。(伍賀偕子・元「関西女の労働問題研究会」代表)

目次
 序章 社会政策と現代の対話 課題と方法
 第1部 社会政策と分析視座
第1章 日本社会政策論の系譜 <経済学>系と<社会学>系
第2章 <社会学>系社会政策社会保障社会福祉 福武直の世界
第3章 社会政策と厚生経済論の交差 福田徳三と大河内一男
第4章 日本社会政策思想の潮流 <市場>経済と<非市場>経済
 第2部 社会政策と生命・生活
    第5章 1910〜20年代の日本進歩主義者の群像  「救貧」から「防貧」へ
    第6章 戦前日本の社会政策と家政・生活問題 森本厚吉の消費経済論
    第7章 日本における<都市>社会政策論 山口正と磯村英一
第3部 社会政策と人口問題
   第8章 人口問題と日本社会政策論史 南亮三郎の位相
   第9章 人口の<量>・<質>概念の系譜 上田貞次郎と美濃口時次郎
   第10章 戦前から戦後における人口資質概念の史的展開
   第11章 人口抑制から社会保障へ 人口認識の形成過程
終章  人口・社会問題のなかの社会政策 結びと展望
補章1 戦後日本における社会開発論の生誕
補章2 日本社会保険制度史と近藤文二