エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)

ブログ記事の引用転載を希望される方は、https://l-library.hatenablog.com/about をご確認ください

映像(幻灯と映画)に見る戦後の失業・貧困問題と労働運動

 2011年以来、これまで毎年のようにエル・おおさかを会場として、幻灯上映会を開催してきました。今回は2013年に上映して好評を博した「にこよん」を再上映します。「にこよん」は全日自労(全日本自由労働組合)が製作したモノクロの幻灯です。 

f:id:l-library:20121014141418j:plain

 1949年、「ドッジ・ライン」の財政緊縮政策に伴う失業危機に対処する公共事業として、失業対策事業が開始されました。失対事業に就労する日雇労働者は「ニコヨン」と通称され、生活と労働は、戦後の独立プロダクション映画の嚆矢となった『どっこい生きてる』(1951)をはじめ、いくつかの忘れがたい映画や歌曲の題材となってきました。

 『どっこい生きてる』は、職人・建設など屋外労働者の組合である全日本土建一般労働組合(全日土建)・東京土建一般労働組合(東京土建)の協力を得て製作されました。全日土建から日雇労働者の組合が分離独立して1953年に結成された全日自労は、失対労働者を中心とする日雇労働者の全国組織として、労働の権利と最低限の生活保障を求める運動を担い続けました。全日自労の全国各地の分会では、文学サークル誌活動や演劇活動などの多様な文化活動が行われ、飯田橋分会の組合員たちが、自分自身の体験に即して脚本を書き、カメラの前で演技して自主製作した幻灯『にこよん』は、そのユニークな成果の一つです。

 全日自労は、1963年の緊急失業対策法改正に対する反対運動の一環として、幻灯のみならず、セミドキュメンタリー映画『ここに生きる』(望月優子監督)を自主製作するなど、映像メディアを駆使した文化・教宣運動を積極的に展開し、失業、貧困、女性の労働問題について独自の視点をもつ映像作品を世に送り出しています。

 今回の上映会では、全日自労が製作に関与した映像作品を上映するほか、失対日雇労働者の世界を描いたいくつかの映画作品を紹介し、戦後の日雇い労働者の状況を映像によって知っていただきます。

 また、『近代日本の都市社会政策とマイノリティ』(思文閣)の著者、杉本弘幸さんによる講演「戦後の失業対策事業と労働運動」によって、より深く当時の状況を学ぶことができます。 

日時:2018年3月2日(金)18:00~20:30(17:40開場)

場所:エル・おおさか(大阪府立労働センター)5階視聴覚室←変更しました

   大阪市中央区北浜東3-14

アクセス交通アクセス | エル・おおさか

講演:杉本弘幸氏(立命館大学ほか講師)

  「戦後の失業対策事業と労働運動について」

作品解説鷲谷花(大阪国際児童文学振興財団特別専門員)

台本朗読:東川絹子(関西・炭鉱と記憶の会)

入場料:無料

定員:100人 ←倍増

申込:不要。当日、定員になり次第入場をお断りします。

主催科研費基盤研究(C)15K02188「昭和期日本における幻灯(スライド)文化の復興と独自の発展に関する研究」(研究代表者:鷲谷花

共催:エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)

<スケジュール予定>

17:40 開場

18:00 開会、作品解説

18:10 映画上映

18:50 休憩

19:00 幻灯「にこよん」上映

19:30 第二部:映像上映と講演「戦後独立プロ映画にみる失業対策事業と自由労働者

20:30 終了

<講師プロフィール>

杉本弘幸

1975年、広島県福山市生まれ。大阪大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学・大阪大学)。

京都工芸繊維大学佛教大学立命館大学講師。専門は日本近現代史

著書に『近代日本の都市社会政策とマイノリティ-歴史都市の社会史-』(思文閣出版)、『戦後日本の開発と民主主義』(共著、昭和堂)ほか。

鷲谷 花

大阪国際児童文学振興財団特別専門員・東洋大学他非常勤講師。専門は映画学・日本映像文化史。

共編著書に淡島千景・坂尻昌平・志村三代子・御園生涼子鷲谷花淡島千景 女優というプリズム』(青土社)。主な論文に「満洲から筑豊へ-幻灯『せんぷりせんじが笑った!』(1956)をめぐる「工作者」たちのゆきかい」(『映像学』九六号、日本映像学会、二〇一六年七月)。近年は昭和期の幻灯(スライド)の調査・研究及び上映活動にも取り組んでいる。

 

f:id:l-library:20121014142115j:plain

『にこよん』

1955年
製作:全日自労・飯田橋自由労働組合
脚本・演出・撮影:桝谷新太郎
配給:日本幻灯文化株式会社
神戸映画資料館所蔵オリジナルフィルムから作成したニュープリントを上映

失業対策事業に就労する日雇労働者たちの自作自演により製作された幻灯。脚本・演出・撮影を担当した桝谷新太郎は、満洲からの引揚後に失対日雇労働者となった自身の体験を基に執筆した脚本を、仲間の女性労働者たちの意見により、女性を主人公に変更して改稿した。実際の失対日雇労働者たちの自宅や作業現場にて撮影が行われ、当時の彼/女たちの労働と生活の記録としても貴重な映像作品といえる。