『オルグ!オルグ!オルグ! 労働組合はいかにしてつくられたか』

 本田一成著(新評論/2018年3月/四六並製384頁)

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 本書は、チェーンストアの労使関係を専門的に研究している本田一成(國學院大学経済学部教授)が、業界最大の産業別組合である「UAゼンセン」のオルグ(オルガナイザー)たちがチェーンストアの労働者を組織化する過程を、オルグたちへの徹底的なインタビューにもとづいて構成されたものである。

 著者は、「オーラルヒストリーよりインタビュー」にした理由に、「断片性や網羅性という基準から逃れて」「自らの研究目的や仮設に必要な情報の厚さを優先すべきだと考え」、「記憶から作られた記録の域を出て、読み手を寄せる」作品を目ざしたと述べている。

 カバー帯は― 労組仕掛け人のストーリを追うと、「ロマン」が見えてきた!まるで忍者のごとく各地を飛び回った男達(オルグ)が、日本社会に残したものとは・・となっている。

 1950年代に「流通革命」と呼ばれる、大量出店、大量仕入れ、大量販売を目的としたチェーンストアの続出で、大量採用により、夥しい数のチェーンストア労働者が生まれた。旧来の主従関係(小僧、丁稚、手代、番頭)ではなく、経営者と対等な関係の民主的な労働組合を結成し、その労組の新たな産別組合をつくろうという「ロマン」の実現過程を追うのが本書のテーマだ。前段では、小売業界の労働運動の歴史=“過激な「全百連」の後遺症”、商業労連、一般同盟、全国チェーン労協が語られているが、本書の主題は、「ゼンセンのオルグ」活動だから、それぞれの検証はここでは省略する。

 1946年に結成された「全繊同盟」(全国繊維産業労働組合同盟)は、50年代に繊維大手のほぼ100%を組織化し、中小の組織化、「組織拡大」に全力投入する産別組織として、その「大産別主義と内部統制」を特徴とする「産別組合の王者」を誇ってきた。繊維産業の衰退を背景に、次々と他業種の組織化を手がけ、流通業界にも加盟組織を拡大していく過程で、“アンチゼンセン”勢力も台頭するが、それをまとめて統合していく手腕も本書の「オルグ能力」なのだろう。組織名称も変わっていく。つまり、全繊同盟→ゼンセン同盟→UIゼンセン同盟全国繊維化学食品流通サービス一般労働組合同盟2002年1989労組約784,000人)→UAゼンセン(2017年9月時点2428組合1,726,356人)に。どの時期も「組織拡大」が最優先である。

 ゼンセン専従の職業的オルグの「三大オルグ」と称される、二宮誠、三ツ木宣武、佐藤文男の三氏を中心に、全国を飛び回る多くのオルグの組織化手法に迫るインタビューノートは、労働運動史上、貴重な史料となるであろう。現場オルグだけでなく、労働戦線再編の旗振り役の一人である山田精吾も「伝説のオルグ」として登場するが、「ゼンセン史上もっとも多くの組合をつくった」とされる佐藤文男への密着インタビューにもとづいて、本書の展開がなされている(本書脱稿後の2017年12月に佐藤文男逝去、享年92歳)。

 佐藤の組合づくりの原点は、静岡西部の遠州地区、繊維産業の中小企業が密集する地域で、夫婦でガリ版刷りのビラを朝夕2回配り、労働組合が必要であることを訴え続けていて、400人規模の工場で17歳の女性2人が訪ねてきたところから1か月後に組合結成となった。「どんな要求でものむから、組合だけはやめてほしい。ほかの経営者たちに顔向けできなくなる」と言った社長の言は時代を反映していた。もちろん蹴ったが、経営者の抵抗に手痛い目にあった経験は何度もある。労働組合結成の寸前で壊されたり、暴力団まで雇われたり、担い手の切り崩し等々。「オルグ手法の大転換」と記述されている「佐藤方式」とは、経営者団体との懇談会で「組合の役割、左翼労組との違い、全繊同盟の活動、組合づくりの態度や姿勢、生産性の重視など」を説明し、「組合を避けるのではなく、協力関係の形成を」説得して、発想自体が認知されたとみるや、少数労働者をつかむのでなく、経営者との接触の場を求めつつ、集団方式で結成準備にかかって、1961年5月遠州織物労組結成大会(46労組約4,000人)にこぎ着けたというのが、「佐藤方式第1号」。

 全繊同盟組織部がチェーンストア組織化に舵を切ってからも、この「佐藤方式」「集団組織化」方式が全体化されていく。いろんな組合結成やゼンセン加盟へのケースが固有名詞で語られている。それらのケースの中には、総評全国一般の少数組合がすでに出来ている企業にゼンセンの「第二組合」を結成して圧倒した例も語られている。オルグ仲間では「墓場まで持っていく」として、記録しないものだが、著者は、― 組織拡大は、確かに個人プレーではなく集団の成果なのですが、プロフェッショナルによる組合づくりが労働組合運動の背骨になっていることを忘れるべきではありません。また、チェーンストア労組のリーダーたちは、心血を注いで優れたオルグ能力を発揮してきました。これらは、日本の国民にまったく認識されることのない大きな功績と言えます。歴戦のオルグたちに感謝し、拍手を送りたい気持ちでいっぱいです。 オルグの話から学べることがたくさんあります。働く者にとって労働組合がいかに大切なのかを理解して、これからしっかりと労働運動に取り組む気持ちになってもらえるのなら、とてもうれしく思います ― と結んでいる。

 この結語に全く異論はない。本書では「左傾組合」として危険視されている「総評」でも、組合員3円のカンパで中小企業対策を中心に「オルグ制度」が1956年3月に発足して、「野武士のごとくたくましく」をモットーに生涯をかけたオルグ活動がされてきて、『オルグ』(日本労働組合総評議会編/1976年/労働教育センター)にまとめられているが、労働運動史的にはその検証も期待したいところである(敬称略)。(伍賀偕子《ごか・ともこ》元「関西女の労働問題研究会」代表)