エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)

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『アジア太平洋の労働運動 連帯と前進の記録』

鈴木則之著(連合新書21/明石書店/2019年1月/四六判284頁)

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 本書は、ICFTU(国際自由労連)とその後継組織であるITUC(国際労働組合総連合)とその地域組織であるアジア太平洋地域組織(ICFTU/ITUC-AP)の労働運動の展開とそこにおける日本(連合=日本労働組合総連合会)の役割を、歴史的に解説しており、「連合新書シリーズ」の21号とされている。

 著者は1999年から2017年までの18年間、ICFTU/ITUC-APの事務局に勤務し、1999年にICFTU-APの書記長に就任し、2007年にはITUC-APの書記長を務めて、2017年に退職するまで、国際労働運動の舞台で活躍してきた。出身はゼンセン同盟(当時)国際部長を経て、アジア繊維労連書記長兼務、現在は連合国際アドバイザー、UAゼンセン国際顧問、法政大学大学院客員教授を務めている。

 第1章において、「国際労働運動になぜ参加するのか」の設問に、「国際公正労働基準をつくり、実施するための共同行動」と規定していて、これが、本書の大前提である。また、国際的な労使関係に関わる仕組みについての解説も、数少ない学習テキストとなる。

 ICFTU(国際自由労連)は、1949年、第2次世界大戦後の東西対立が深まっている中で、世界労連(WFTU1945年結成)から自由主義国の労働組合が分かれて、「パンと自由と平和」を掲げて結成された(結成時は53か国4800万人とされている)。

 ITUC(国際労働組合総連合)は、2006年に、ICFTUとWCL(国際労連=前身は国際基督教労働組合連盟)が合同して設立され、2018年現在の組織現勢は、163国・地域、331組織、実人員2億300万人で、世界最大の国際労働組合組織として、ILOOECD等の国際機関でパートナーシップを発揮している。

 地域組織と地域委員会は、アジア太平洋、アフリカ、汎アメリカ、ヨーロッパにおかれ、アジア太平洋地域組織(ITUC-AP)は、34カ国59組織2300万人(実人員は、インドのインフォーマルセクターの組織化の急速な進展により6156万人と記されている)で、日本から加盟しているナショナルセンターは、連合のみである。

 第2章「各国労働運動の課題と挑戦」では、インドネシア、ネパール、ミャンマーカンボジア、中国、アラブ労働組合連盟が紹介されており、中には20年をこえる報告もあり、資料として貴重である。著者は「現場からの報告」と述べているが、ITUC-APが各国・地域にどのような方針で臨み関わったかの視点で系統的に概括できるのは、18年間の国際舞台でのキャリアだからこそと思う。

 どの記述もダイナミックで、資料豊富だが、特に興味深いのは、「共産圏の労働組合との関わり」について独自の接触を禁じていたITUCにおいて、対中国、中華全国総工会への方針についてである。「孤立政策から関与政策へ」の見出しにあるように、その方針転換に日本の連合が果たした役割が、1994年の山岸章・連合会長の意見書をはじめ継続した働きかけが記述されている。

 著者は本書のテーマを「組織調整の課題」としていて、本部と地域組織の関係のあり方を意識している。2004年に、前身のICFTU本部書記長が、「地域大会を廃止」し、地域本部書記長は地域総会で選出される現行規約を、本部執行委員会による任命制に変えるという提案、つまり、組織全体を中央集権的に再編成する提案をした。同年12月に第18回ICFTU大会が宮崎で開催される直前だった。直前の執行委員会に、連合の笹森清会長は、地域組織の自律性を否定するこの提案に対して、「宮崎大会を返上する」を賭けて反対論陣の先頭を切り、本部書記長提案は撤回された。メディアでは報道されていない、このような攻防が展開されていたことも、歴史を刻む貴重な記録である。

 ITUCが世界最大の国際労働組織であることはゆるぎない事実だが、1945年に結成されたWFTU(世界労連)については、欄外の注で「国際的にはほとんど影響力を持っていない」とされているだけで、検証も批判も述べられていないので、ここでの言及も控える。(伍賀偕子〈ごか・ともこ〉元「関西女の労働問題研究会」代表)