エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)

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戦後社会運動史論3

『戦後社会運動史論③ ―軍事大国化と新自由主義の時代の社会運動―』

 広川禎秀山田敬男 編(大月書店/2018年12月/四六判288頁)

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 本書は「社会運動史研究会」(故犬丸義一の呼びかけで1990年からこの名称)の3冊目の論集である。

歴史学研究において、社会運動史は現在『冬の時代』である」という状況認識(本論集①広川禎秀論文)から、新しい社会運動史の必要性、可能性を示すこことが大事であるという問題意識から3冊の論集が刊行された。

『戦後社会運動史論―1950年代を中心に』(2006年)

『戦後社会運動史論②―高度成長期を中心に』(2012年)

2巻から3巻刊行まで6年余を経ているが、30年近くにわたって共同研究が重ねられていることにまず敬意を表したい。字数の関係でここでは新刊の③に限定して紹介する。

本書が対象とする時期は、中曽根政権登場の1980年代から現代までで、第Ⅰ部は「方法と課題」として、総論的・史論的論文を配し、第Ⅱ部は「諸分野の社会運動」の構成となっている。二人の編者の他に7人が執筆しており、いずれも興味深いテーマなので、そのまま目次を紹介する。

Ⅰ 方法と課題

 1 戦後日本の社会運動と新しい市民運動成立の意義―その方法的探求と課題  / 広川禎秀

 2 社会運動・労働運動再生の歴史的過程と課題―労働運動と市民運動との関連から  / 山田敬男

 3.市民運動論再考―ベ平連からSEALDSまで / 上野輝将     

Ⅱ 諸分野の社会運動

 4 1990年代労資抗争の一焦点―丸子警報器労組と臨時女子従業員差別撤廃訴訟の 社会史的研究  / 三輪泰史 

 5 「介護の社会化」と新たな市民社会をめざす女性市民運動の成長―1980~90年の大阪の運動を事例として  / 大森実

 6 地域に根ざした世界と結ぶ女性運動―国際婦人年大阪の会を中心に / 石月静恵、

7 地域からの「脱原発」―三重県「芦浜原発」設置計画をめぐる対抗から / 西尾泰広

8 沖縄・島ぐるみ運動の復活―「一九九五年」はどう準備されたか  / 櫻澤誠、

9 地域におけるイラク反戦運動和泉市ピースウォーク  / 森下徹 

Ⅱの各論研究は、興味深い。例えば、丸子警報器労組運動の検証は、判例に対する歴史的注目に比して、ほとんど史料として紹介されてないため、歴史的価値は大きいと思う。

 筆者が注目したのは2の山田論文で、2015年の安保関連法=戦争法反対運動の高揚は「市民と野党の共闘」という新しい可能性を切り開いた、この統一戦線運動の新たな前進が可能となったことに、二つの要因をあげている。その一つは、保守革新の枠を超えた市民運動の登場、上からの動員主義を乗り越える自発的な運動であり、主権者の自覚と「個人の尊厳」を再確認した市民の運動であったと。もう一つの要因として、日本の社会運動に一定の影響を与えている日本共産党の路線の進展=「マルクス・レーニン主義」から先進国型、市民社会に適合する基本路線への発展―をあげていて、このことが、市民運動と左派との水平的連合を可能にし、統一戦線運動の新たな発展を生み出す要因となったと。

 もう一つの注目は、本書の「社会運動史研究の必要性」という問題意識と、各論で大阪の運動が多く登場していることから、『大阪社会労働運動史』(大阪社会運動協会編纂 現在第10巻準備中)はどう評価されているのかという疑問だったが、5の「介護の社会化」をめざす市民運動についての大森論文で、この『大阪社会労働運動史』8巻の高齢者福祉運動についての竹中恵美子論文が評価引用されている。

 本書が強調する「社会運動史研究」の深化が社会労働運動の広がりと進化、次代への継承に繋がることを心から期待し、自分自身もその一翼を担いたいと思う。(伍賀偕子〈ごか・ともこ〉元「関西女の労働問題研究会」代表)