蛾のおっさんと知る 衝撃の学校図書館格差 ~公教育の実状をのぞいてみませんか?〜

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    (株)郵研社ホームページより
  • あなたのお子さんの学びに寄り添うはずの学校図書館自治体によって信じられないような教育格差があることをご存知でしたか? その実態を蛾のおっさんと共に考えてみましょう。
  • 「こんな図書館は、花マルだね!」
    「こんな図書館はバツだね(涙)」
    子どもたちのための学校図書館を考えながら、蛾(が)んばって飛び回るのだ!

山本みづほ 著
四六判 218ページ
税別 1,500円

   蛾(が)のおっさん? 学校図書館? なんでエル・ライブラリーにそんな本が? とお思いのあなた、もちろん当館は労働専門図書館であり、学校図書館とはかなり相当だいぶ館種が異なります。しかし、この本を読み進むにつれて、じつは学校図書館の格差問題が、労働問題にも行きつくということがわかるのです。

 結論を急ぐ前に、本書の構成を見てみましょう。

 全体は5章に分かれていて、「蛾のおっさん」が全国学校図書館を飛び回って見分してきたことを山本みづほ先生に語り、みづほ先生はおっさんのつっこみを受けながら、自らの歩んできた司書教諭の仕事を語っていくという構成になっています。

 蛾のおっさんというのはおっさんの顔をした蛾のことで、図書館の書架(書棚)の奥でひからびているのがしばしば発見される、あの”蛾”と似ています。蛾のおっさんは好奇心が強く、とりわけ図書館が大好きなので、世界中の図書館を飛び回っています。ついにある夜、山本みづほ司書教諭のもとに全身白タイツづくめの姿で現れたのでありました。

 そもそも学校図書館とはなんでしょうか。小中学校と高校に設置されている図書館(図書室)のことです。学校図書館法によって設置を義務づけられています。12学級以上の学校には専門教員として司書教諭の資格もった教員の設置も義務付けられています。職員である「学校司書」の配置も努力義務とされています。

 法律の条文だけ読めば、日本国はかなり力をいれて学校図書館を運営しているように思えますが、実態はまったくそうではありません。実際には有名無実な司書教諭の存在、10校もかけもちさせられている学校司書の存在など、さまざまな問題点が本書であぶりだされています。

 もちろん、みづほ先生のように熱意と努力で学校図書館を素晴らしいものにしようと懸命に奮闘された方もおりますし、成果を上げている学校もあります。その格差が問題だと、みづほ先生は蛾のおっさん相手に語っています。

 みづほ先生が35年間取り組んできたさまざまなプロジェクトの歴史が目をひきます。落ち着かない生徒たちの心を朝の読書タイムが和ませ、読書の習慣をつけさせたというくだりでは、「ヤンキー」とみなされていたような生徒が一体どんな本を一生懸命読むようになったのか、具体的なタイトルを知りたいものだと興味をそそられました。

 最後の第5章「愉しきかなトランジッション」には、早期退職して「独立系司書教諭」となったみづほ先生が、いま学校図書館に何が必要か、なにをすべきかを提言しています。学校司書の劣悪な待遇については労働条件の向上を。忙しすぎる司書教諭は担任業務から解放して図書館に取り組む維持間の確保を、と。

 教育の根幹にかかわる読書習慣や自分の頭で考えるための知的資源にお金をかけない日本国の貧しい文教政策が見て取れます。国がそもそも問題なだけではなく、自治体によって大きな差が出ていることも事実で、図書館先進県の鳥取県などは手厚い図書館行政が実施されているということです。

 本書を読めば大規模校から離島の学校まで多くの学校を異動しながら学校図書館の向上のために尽力してきたみづほ先生の苦闘を知って、思わず声援したくなります。そして、特に心に残った「忘れられない学校図書館5つの物語」の節では、図書館が生徒にとって居場所として機能していたことがわかり、とても大事な場所であったことに感銘を受けました。生徒とともに教師も育っていくのです。

 いまや、図書館界は業界全体がブラック業界と化し、公共図書館員の7割以上が非正規職となっています(『日本の図書館 統計と名簿』2018年版より)。学校図書館もご多分に漏れず、司書教諭は正規職ですが司書教諭を助けて図書館運営の実際を担っていく学校司書は非正規職が多く、低賃金のうえに何校も兼務させられているのに交通費も支給されないといった問題が本書で指摘されています。

 労働者を大事にしない、教育を大事にしない、そういった施政が長い目で見ればどれだけ多くの知的財産を日本から失うことになるのか。暗澹たる気持ちになってしまいますが、蛾のおっさんとみづほ先生は希望を捨てません。

蛾「学校には図書館があることと、その学校図書館自治体によってものすごい格差があること、そしてその格差とはそこに配置された『人』の差であることをわしももっと伝えていくぞ」

山本「そして学校図書館にはできることがたくさんあり、ハナマル図書館は子どもたちを幸せにすること。逆に言うならバツ図書館は、子どもたちを不幸にすることをもっと私もつたえていくわ」(209頁)

(谷合佳代子・エル・ライブラリー館長、司書)