エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)

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「情」と「理」 山﨑弦一語録集

発行:連合大阪(2019年12月/B判178頁/私家版) 

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 本書は、連合大阪(日本労働組合総連合会大阪府連合会)会長を3期6年務め、2019年10月に退任された山﨑弦一氏の、定期大会や執行委員会、メーデー春闘決起集会などにおける挨拶を、退任を機に「語録」としてまとめたものである。

会長職時代の6年間の世界・国内情勢の変遷の中で、その時点で労働組合として重視すべき課題と方向性について、その肝とも言うべき点が語られている。

「働くことを軸とする安心社会」の実現が、連合のめざすスローガンだが、労働組合ナショナルセンター及びローカルセンターが、この時期どのように考え、どのような方針提起をしていたのかを検証する歴史上貴重な史料となるであろう。

山﨑氏は、退任にあたって、結成30周年を迎える連合運動への期待の言葉を次のように語っている。

―「今、運動も組織も自己革新しなければならない」とし、①年齢や性別、障がいの有る無し、国籍を問わず、誰もが安心して働ける労働市場を創る、②ディーセントワークを企業や働く者自身の努力で創り出していく、③積極的な人への投資(学校教育や職業教育)を実現する、④安心して働けるセーフティネットの構築、富の再配分を公平に行う社会保障制度などの社会インフラを構築する、という四つの高い「志」を立て、しっかりと共有することが重要です―さらに、力を発揮するための要点として「隗より始めよ」「『情』と『理』を大切にした対話を」「多様性を力に」という3点をあげ、運動が前進することを期待する―と。

全体を通して語られているテーマは、「働き方改革」や「若者の貧困と奨学金問題」、「男女共同参画・女性活躍推進」、「生産性」そして、「国政及び地方選挙に臨む態度」、「地方創生・地方分権」等々、多岐にわたっている。いずれも、連合本部や連合大阪の運動方針文書を解説するだけではない、労働組合リーダーや労働者一人一人に伝えたいことが滲み出ている「語録」である。

 いくつか印象に残った「語録」を紹介したい。

 まず、本書の副題である、「情」と「理」について― いくつかの先人の言葉を紹介しながら、福沢諭吉の「人間社会は『情』が7割、『理』が3割」の言を引用して、―IT革命やグローバル化が進む現代、この比率をどう考えるのか?意見が分かれるところだと思いますが、私たちの訴えは「理」ばかりが先行していないか?という反省が必要ではないか、コミュニケーション論でも「情報」と「感情」のやり取りがあって初めて成功すると言われています。「感情」のやり取りにまで、組合員の皆さんとの対話を深めていく地道な努力が求められています―と。

 一番多く語られている、安倍政権の進める「働き方改革」の危険性とそれへの「対峙」について―「働き方改革」は、政府から与えられるものではなく、現場労使の自治の下で、働く人の「働きがい」や「やりがい」を大切にした、「人間尊重」を基本とした取り組みでなければなりません―と、その基本的視点を提起している。

 そして、「働き方改革」の理念として掲げられる「生産性向上」についても、1959年のヨーロッパ生産性本部のローマ宣言「人間の進歩に対する信念である」にさかのぼりながら、あるいはゴーリキの戯曲『どん底』の台詞「仕事が楽しみなら人生は極楽だ。仕事が義務ならば人生は地獄だ」を引用して、働くことの質を本来的に問うている。さらに重要な点は、「生産性3原則」の3点目、成果の公正配分、生産性向上の諸成果は経営者、労働者および消費者に、国民経済の実情に応じて公正に配分されなければならないと強調している。

 本書は限定印刷なので、書店で購入できないが、共有したい方は、エル・ライブラリーで閲覧できる。(伍賀 偕子<ごか・ともこ> 元「関西女の労働問題研究会」代表)