エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)

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『大学的大阪ガイド ―こだわりの歩き方』

 当館館長・谷合も筆者の一人である新刊書を紹介します。

『大学的大阪ガイド ―こだわりの歩き方』大阪公立大学現代システム科学域 編、住友陽文, 西尾純二責任編集 昭和堂 2022.4 412ページ 定価2,640円(税込)

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 「はじめに」において、責任編集者の住友陽文が本書の構成について “あまたある「大阪ガイド」に屋上屋を架すのではなく、大学ならではの「大阪ガイド」をつくるということ” に留意したと述べています。そのため本書には環境、公共性、多様性という3つの柱が立てられています。それらは以下の目次第1部から3部のタイトルに表出しています。

 特に第2部については、とあるシンポジウムでの谷合の発言が「パブリックというのは設立主体が公立なのか私立なのかにかかわらず、その機能によるところが大きく、さまざまな設立主体が入り交じって全体として公共的な働きをするという将来の社会への展望を示していた」ことに大きな示唆を得たということです。この詳細は谷合が執筆した第2部巻頭の「大阪産業労働資料館(エル・ライブラリー)――私立公共図書館という存在」をお読みください。

 まずは目次を紹介します。

はじめに  住友陽文
第1部 自然と人為―環境とは何か
泉北丘陵の自然―外来植物と人のくらし  中山祐一郎・木村 進
〈コラム〉生き物のすみ場所としての堺市域――堺市レッドリストにおける要注目生態系としての視点から  佐久間大輔
大和川の鳥類、哺乳類、両生爬虫類  和田 岳
大阪産(もん)魚介類の調理文化と魚食普及  黒田桂菜
難波の葦の物語――古典文学の中の大阪  青木賜鶴子
浪華八百八橋の変遷  阿久井康平
原子炉と地域社会――熊取町京都大学複合原子力科学研究所  住友陽文

第2部 社会・文化と行政――公共性とは何か
大阪産業労働資料館(エル・ライブラリー)――私立公共図書館という存在  谷合佳代子
〈コラム〉リバティおおさか(大阪人権博物館)  吉村智博
〈コラム〉今は無き、あの千里万博公園にあった大阪府立国際児童文学館  大橋眞由美
〈コラム〉大阪樟蔭女子大学 田辺聖子文学館  中 周子
見せる/魅せる仕掛け、博覧会とミュージアム  福田珠己
萩原広道『源氏物語評釈』と近世大坂の出版  青木賜鶴子
大坂の学芸史――円珠庵から懐徳堂へ  西田正宏
大阪の高等教育機関公立大学  山東 功  
モノづくりの街 東大阪の進化プロセス――独立創業から企業間ネットワークへ  水野真彦
大阪/新世界と「ディープサウス」の誕生――近代大阪秘史の一断面  酒井隆史
公営住宅が多い街・大阪――ハシゴをのぼらない暮らし方の可能性  西田芳正

第3部 イメージと多様性―「大阪」とは何か
大阪方言の地域的多様性とその背景  西尾純二
〈コラム〉南大阪方言の謎解きと蛸地蔵伝説  西尾純二
人形浄瑠璃文楽と大阪  久堀裕朗
生駒の神々と近代の大阪  秋庭 裕
忠孝精神を売りに地域づくり――萱野三平旧邸保存運動  住友陽文
阪田三吉とその表象――大阪の「自己欺瞞」としての  酒井隆史
あとがき  西尾純二

 これだけ多方面にわたって「大阪」が論じられている点に瞠目すべきでしょう。執筆者のほとんどが大阪公立大学*1の教員であり、それぞれの専門領域から「大阪」について述べられています。

 各節は独立しているため、どこからでも読めます。実家が東大阪市の町工場である私にとっては、第2部で展開されている東大阪の産業集積の歴史に興味をそそられました。また第3部の大阪弁の多様性について書かれた部分も、「そやそや」と首肯しながら読んだり、反対に「こんな大阪弁、知らんわ」と首をかしげながら読んだりと、普段何気なくしゃべっている言葉の不思議さに心を動かされました。

 自然科学・社会科学・人文科学の総合知の賜物としての本書は、一つずつの論考が他の分野の論考につながっていく広がりを見せています。知っているようで知らない大阪、新発見の大阪、そして学問的には大阪がどのように見えているのか、さまざまな大阪の姿をぜひ本書で楽しみながら学んでください。(谷合佳代子)

*1:大阪府立大学大阪市立大学が統合されて2022年4月1日に発足

新着雑誌です(2022.4.17)

今週の新着雑誌です。

新着雑誌のうち最新のものは貸出できません。閲覧のみです。

労政時報 4033号 2022.4.8 (201420361)

労務事情 No1446 2022.4.15 (201420338)

ビジネスガイド No918 2022.5.10 (201420312)

労働経済判例速報 2473号 2022.4.10 (201420395)

労働判例 No1259 2022.4.15 (201420304)

労働基準広報 No2094 2022.4.1 (201420197)

労働基準広報 No2095 2022.4.11 (201420221)

賃金と社会保障 1798号 2022.3.25 (201420254)

賃金と社会保障 1799号 2022.4.10 (201420288)

 

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メルマガ500号記念プレゼント

 このところ、何冊も新刊本を恵投いただいています。そのうち、複数を頂戴した図書について、当館メールマガジン読者にプレゼントします。

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 本日発信するメールマガジンが記念の500号となります。今からでも読者になっていただければ、500号と501号でプレゼントの案内をしますので、ご応募できますよ~♪ 応募者多数の場合は抽選します。

メールマガジン受信ご希望の方は以下のリンク先フォームからお申込みください。「メルマガ受信希望」と書いてメールアドレスと共にご記入ください。

お問合せ - エル・ライブラリー

 

今回読者の皆様にお贈りするのは、下記3冊です。

① 小田康徳著『明治の新聞にみる北摂の歴史』神戸新聞総合出版センター 2021年9月 A5判310頁 2200円+税  紹介文はここ

熊沢誠著『スクリーンに息づく愛しき人びと 社会のみかたを映画に教えられて』耕文社 2022年4月 1800円+税 (紹介文は近々掲載予定)
労働政策研究・研修機構編『近江絹糸争議斡旋経過 中央労働委員会による』労働政策研究・研修機構 2022年3月 1800円+税 (紹介文は近々掲載予定)

新着雑誌です(2022.4.7))

今週の新着雑誌です。

新着雑誌のうち最新のものは貸出できません。閲覧のみです。

労務事情 No1445 2022.4.1 (201419975)

企業と人材 No1110 2022.4.5 (201420007)

賃金事情 No2845 2022.4.5 (201420031)

月刊人事マネジメント 376号 2022.4.5 (201420122)

人事実務 No1231 2022.4.1 (201420064)

労働判例 No1258 2022.4.1 (201420098)

月刊人事労務 396号 2022.1.25 (201420155)

地域と労働運動 257 2022.1.25 (201419959)

 

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「読売新聞」に労働遺産認定委員としての館長コメントが掲載されました

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 世の中はウクライナでの戦争に耳目が集まり、それはそれは悲惨な状況が連日報道されています。図書館は平和の礎の一つと考えている私はこの状況に何ができるのかと思いをめぐらせています。図書館に戦争を止める力はありませんが、戦争に至らない道を探す知識の宝庫として、過去の記録や先人の知恵をアーカイブすることが図書館の使命と考えます。

 さて、そのような折ではありますが、今年1月に「日本労働ペンクラブ」が初めて選定した「労働遺産」が発表され、認定証が公布されました。栄えある第1回の労働遺産に認定されたのは以下の2件です。

ⅰ 川崎・三菱大争議など大正時代の関西労働運動の記録
ⅱ 近代的労働運動発祥の地記念碑と遺構

 認定証はこれらの労働遺産を所有、管理する下記4団体に交付されました。
・法政大学大原社会問題研究所(東京都町田市)
賀川豊彦記念松沢資料館(東京都世田谷区)
・賀川記念館(神戸市)
一般財団法人日本労働会館友愛労働歴史館

 労働遺産の詳細はこちら

 当館館長・谷合は労働遺産認定委員の一人として1年間の協議に参画してきました。そして、労働ペンクラブ関西支部・森田定和代表が神戸の賀川記念館・馬場一郎館長に認定証を交付する場にも立ち会いました。

 このたび、読売新聞大阪本社の辻阪光平記者が記事を書いてくださいましたので、皆様にお知らせいたします。著作権保護のために本文を全部は読めないようにしていますが、最後に谷合の言葉が掲載されていますのでご笑覧ください。

 また、これに先立ち、日本労働ペンクラブ関西支部支部通信』第35号(2022.1)に「日本労働ペンクラブ労働遺産認定「川崎・三菱大争議など大正時代の関西労働運動の記録」の意義について」と題して谷合が短文を寄稿しています。(谷合佳代子)

『戦時期日本の働く女たち ジェンダー平等な労働環境を目指して』 

堀川祐里 著(晃洋書房/2022年2月/A5判228頁) 

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 本書は、戦時期の女性の労務動員についての歴史的・実証的研究から、現代にも通じる女性労働者の稼得労働と妊娠、出産、育児に関する課題を照射している。

 著者は現在、新潟国際情報大学国際学部講師で経済学博士(中央大学)。戦時期の女性労務動員についての研究論文が多く、2020年10月には、赤松常子顕彰会より「第49回赤松賞」を受賞している。

<目次> 

全体の構成は以下の通りであるが、各章の見出しと副題が工夫されていて、読者の関心のあるところからアクセスでき、読書会のテキストとして活用できるイメージが湧く。

はしがき
序 章 戦時期日本の働く女たちに関する研究のこれまでとこれから 
第一章 一九二〇年代から一九三〇年代の女性の就業状態 
― 労働運動の指導者と研究者の視点から見た働く女たち 
第二章 未婚女性の労務動員のための「戦時女子労務管理研究」 
 ― 労働科学研究所の古沢嘉夫の視点から 
第三章 既婚女性労働者の困難 
 ― 妊娠、出産、育児期の女性たち 
第四章 女性たちの労務動員に対する態度の多様性と政府の対応策 
第五章 赤松常子の主張と産業報国会の取り組みとの齟齬 
 ― 既婚女性の労働環境をめぐって 
第六章 戦時体制が残した女性労働者の健康への視点 
 ― 生理休暇の現代的意義 
終 章 戦時期日本を生き抜いた働く女たち 
あとがき

<戦時期日本の女性労働環境の研究・提言が問うていること>

 著者曰く「戦時期は、資本主義社会における自助原則、つまり自己責任の原則がむき出しになった時代であった」と。本書では、戦争を生き抜くために、働く女性たちを保護しようという視点をもった労働科学研究所の古沢嘉夫の研究や、戦前の日本労働総同盟婦人部の指導者・赤松常子(産業報国会でも使用者に抵抗した)の提言・行動を中心的に追跡している。

 労働科学研究所の研究者たちは、生殖能力の指標としての月経の調査研究を続け、女性の健康状態を可視化した。

 そして、これらの蓄積が、敗戦直後の労働基準法制定において、国際的にも初の「生理休暇」規定に結実したと規定している。労基法は第8次案まで紆余曲折を経て、生理休暇規定実現までの赤松常子や谷野せつらの健闘も貴重な記録である。均等法制定過程で「生理休暇」規定が労基法から消えたかの風潮が支配的な昨今、コロナ禍で「生理の貧困」が問題となり、最近メディアでも改めて「月経」についての考察が話題となっている。

 著者は現代的課題から戦時期の女性の働き方を照射していて、歴史研究としてだけでなく、今まさに求められている実践的課題を導いている。

 本書の帯には、~「生理休暇」が<消える>ためには?~のキャッチフレーズが踊っている。第6章では、赤松の生理休暇要求の根幹は、労働環境、休暇・休養一般の不備であったのではないか、女性労働者の労働生活の改善のための足掛かりとしてとらえていたのではないか、さらに、この規定制定後もそれで事足れりではなく、女性労働者の労働環境改善に対して主張を続けたと。

 著者の結語は、~ 現代日本を生き抜く働く女性には、仲間と繋がれば、自分たちの生活を、ひいては社会全体を変えられると信じて行動してほしい。戦時期日本の働く女たちについての本研究が、少しでも今を変えるきっかけになればと願う~と。(伍賀 偕子(ごか ともこ))

所蔵資料紹介~辻󠄀保治資料(近江絹糸紡績労働組合関係資料)

29. サークル誌(1)

 辻󠄀資料には、近江絹糸各工場で活動していたサークルが作成したサークル誌が16タイトル41点(重複を除くと38種)含まれている。最も多いのが彦根工場のもので、12タイトル37点(34種)にのぼる。彦根工場のサークル誌はその作成年代、背景によって、概ね3つの資料群に区分できる。

 第一は、人権争議終結後の1954年10月から1956年4月に発行されたサークル誌である。『波紋』(若葉会、話合[文学])、『ともしび』(読書会、文学)、『クルミ』(クルミ会、演芸・コーラス)、等が存在している。

『ともしび』5号(1955年4月)

クルミ』(1955年12月)

 人権争議発生後、近江絹糸の各工場では、文芸・音楽等のサークル活動が一気に盛んになった。1955年7月の彦根支部大会報告には、文学関係3、話合1、演芸・コーラス1、絵画1の6つのサークルが列挙されている。

 サークル誌の内容を見ると、「緑の会はアカでもなんでもないと言う事をよく知ってもらいたいと思います」(緑の会『波紋』創刊号6頁)等サークル活動が政治活動の場と見られていたことがわかる。当時を回顧する座談会において、辻󠄀自らが、共産党細胞等のサークルへの関与について話していることからも、人権争議期の文化活動は争議にかかわった様々な政治勢力と無縁では有り得なかった。一方で、同じ座談会で、辻󠄀は「…おそらくサークルは自然発生的に生まれています。そこに後から共産党の指導が入ったということはいえますが、彦根の場合生まれたのは自然発生的だと思っています。」とも語っている(注1)。

 争議中に彦根支部文化部が創刊した『暁起』(1954年8月発行)は主に組合員が投稿した手記や詩を中心に編集されているが、創刊号に、「労組の文化活動について」と題した座談会の記事が掲載されている。これは、全繊滋賀支部が司会で、日清労能登川東レ瀬田、鐘紡彦根などの労働組合の教育文化担当者が出席し、近江絹糸のこれからの文化活動に助言をしようという企画である。

 しかし、組合員の自主的な投稿を中心とした機関誌の発行やサークル活動の積極的支援を行っている組合は少なかった。むしろ、「近江絹糸で、今後、文芸サークルとか、その他の文化活動を、いかに活発に行なって行くか」、経済面からも「うまく会社にやらせる様に仕向けるという動きを示す事が大切」であり、「この大争議で、いろいろ原稿として書く事は今の所は、なんでもありますが、これからは、そういうものもなくなつてくんじゃないかな」という感想が述べられている。

 これに対し、近江絹糸の文化活動担当は次のように述べている。

「‥私としては、近江絹糸の組合員は、本当に百八十度転換したと思うんです。今迄、圧えつけられていて何も思つた事をしゃべれず、日記以外は、公にしてペンを動かす事されなかつたですが、今は違うんです。この発刊【著者注:本記事の掲載されている『暁起』のことだと思われる】に当つて各支部からの原稿を募集した所圧倒的多数の真実の声が寄せられたのです。どれも今迄に見られなかつた人間として、人間らしく真剣に生き抜こうと言う、真に胸を打つものです。」

 すでに、軌道にのった労働組合活動の一部門として教育文化活動を行う他組合と、文化・表現活動が自由の象徴として、労働運動と一体となって進められる高揚期にあった近江絹糸労組との温度差が読み取れる。

『暁起』創刊号

(注1) 「近江絹糸の思い出」(『大阪労働運動史研究』NO.15,1985)25-26頁

 

(下久保恵子 エル・ライブラリー特別研究員)

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