エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)

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奈良県教職員組合文書目録 : 科研費研究成果報告書

研究代表者 森下徹  2022.3   434p, 30cm
タイトル別名:課題番号18K00949 2018年度~2021年度 科学研究費助成事業 基礎研究(C)  科研費研究成果報告書 奈良県職員組合文書目録

 このたび、写真のような大部な資料目録をいただきました。
 本書は科研費を使った研究の成果であり、2018年度から4年をかけて作られた目録です。430頁のうち、解題が11頁で、あとは資料リストになっています。最近ではこのような冊子体の目録を発行することが珍しくなりましたので、大変な労力を割かれたことにまずは心からの敬意を表します。

 この資料群は、「都市部における教職員組合運動と教育実践 : 大阪・京都・奈良の比較史的考察」をテーマとする研究プロジェクトによって整理されていきました。本研究の目的は、既に整理し終わった大教組所蔵史料を中心に、「奈良県職員組合・京都教職員組合の所蔵史料や部落問題研究所が所蔵する同和教育実践に関する史料を総合的に調査し、大阪・奈良・京都における教職員組合運動や教育実践の展開について、地域における戦後民主主義の成長という観点から実証的に分析することにある」(同書p.1)とのことです。

 採録された奈良県職員組合所蔵文書(奈教組文書)は奈良県教育会館に収蔵されています。この会館は1944年に建設されたため、戦前期の資料も引き継がれています(現在の会館は戦後建て替えられたもの)。地下書庫に収められている資料群の原状把握のために、2018年の研究開始とともに科研メンバーが写真撮影を行い、37の棚(書架)の状況を記録しました。本書には37の棚番号とその内容が記録されています。

 今回の採録作業では、棚のすべての資料目録が作成されたわけではありませんが、戦前戦後を通じた膨大な資料の状態がわかるようになっています。その内容は組合の組織編制の記録だけではなく、地域での社会運動との連携がうかがえる資料が多く含まれているとのことです。文書類の多くが1960年代以降に蓄積されたものだそうで、この会館の地下書庫は、「戦後奈良県社会運動の史料センターとも言うべき存在」(p.8)として位置付けられています。

 目録が作成されたために、今後は研究への利活用が進んでいくことと思います。ただ、惜しむらくは目録の記述規則が明確にされていないため、図書館の目録としては使いにくい部分もあります。図書や雑誌は他館所蔵の資料との識別同定のために目録の標準化が必要ですが、それがなされていません。文書については一点ものと思われますので目録の標準化は必要ありませんし、そもそも日本にはアーカイブズ資料の標準目録規則がありませんから、これでかまわないと思いますが、ISAD(G)(※)のような国際標準への目配りがあればなおよかったと思います。

 今後、この膨大な目録をデータベースとしてネット上で公開していただければありがたいです。CSVファイルでダウンロードできるようにされれば、研究者にとっては”使える目録”となるに違いありません。さらに欲をいえば、当館などが試験運用中の AtoM のようなアーカイブズ記述アプリケーションを使って目録を公開されれば、資料群の構造も可視化され、さらに他館資料との横断検索も可能になるので、科研の研究成果としては多大なる社会貢献へとつながると考えます。

 今般、目録記述という「資料組織化」がなされたので、「利用」への大きな一歩となりました。今後これらの資料を閲覧利用できるようにするための方策がとられることを望みます。と、ここまで書いてきて既視感に襲われました…。同じことを2017年にも書いていました(汗)。

 いろいろないものねだりを書いてしまいましたが、アーカイブズ機関として当館が協力できることがあれば喜んでお役に立ちたいと考えています。目録を作成くださったみなさまのご苦労に感謝しつつ。(谷合)

 

(※)ISAD(G)は、国際文書館評議会(ICA)が策定した、アーカイブズ記述のための一般原則のこと。

当館・黒川特別研究員の論文など

 ここ半年ほどの間に公刊された、当館スタッフの論文や記事をご紹介します。当館所蔵資料の活用成果の一つとしてご高覧ください。

 当館特別研究員の黒川伊織が執筆した「戦後大阪の革新勢力 : 一九六〇年代を中心に」 (特集:社会運動の一九六〇年代再考)は、『年報・日本現代史』26号(2021年12月)に掲載されています。これは先日ご紹介した「「無産」から「革新」へ ―1920-70 年代大阪における政治運動と労働運動」の元になった論文です。より緻密な議論が展開されていますので、ぜひご覧ください。

 次に、館長谷合佳代子が執筆した「専門図書館の広報」について。日本図書館協会図書館雑誌』1183号(2022年6月)の特集「図書館の広報を考える」の中の記事として当館の事例を紹介しました。こちらは実践報告としてお読みいただければ幸いです。これまで多くの人々に支えられてきた当館の歩みを、「広報」という視点から振り返ったものとも言えます。

 この特集で取り上げられている他の記事が大変興味深く、行ってみたいと思わせる図書館が目白押しです。

◆特集記事の目次

図書館館の広報を考える : 可視化と行動変容 / 河井 孝仁
図書館におけるソーシャルメディアを用いた広報 : 効果的な広報のために / 水沼 友宏
「らしくない図書館」をまじめにめざしています / 小佐野 みはる(富士吉田市立図書館)
全国広報コンクール入選『広報おの(ONO Press)』「図書館の舞台裏」特集 / 常深 千子(兵庫県小野市)
国立国会図書館月報』の目指しているもの / 古野 朋子
専門図書館の広報 : 私立図書館エル・ライブラリーの場合 / 谷合 佳代子

新着雑誌です(2022.6.24)

今週の新着雑誌です。

新着雑誌のうち最新のものは貸出できません。閲覧のみです。

労政時報 4037号 2022.6.24 (201421732)

賃金事情 No2850 2022.6.20 (201421641)

労務事情 No1450 2022.6.15 (201421617)

月刊人事マネジメント 378号 2022.6.5 (201421625)

労働経済判例速報 2478号 2022.5.30 (201421799)

労働判例 No1263 2022.6.15 (201421674)

季刊労働法 277号 2022.6.15 (201421765)

労働基準広報 No2101 2022.6.11 (201421823)

労働基準広報 No2102 2022.6.21 (201421708)

 

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新着雑誌です(2022.6.16)

今週の新着雑誌です。

新着雑誌のうち最新のものは貸出できません。閲覧のみです。

労政時報 4036号 2022.6.10 (201421567)

ビジネスガイド No920 2011.7.10 (201421518)

労働経済判例速報 2479号 2022.6.10 (201421393)

労働法学研究会報 No2766 2022.6.1 (201421476)

労働法学研究会報 No2767 2022.6.15 (201421591)

賃金と社会保障 1802号 2022.5.25 (201421427)

賃金と社会保障 1803号 2022.6.10 (201421450)

月刊人事労務 No400 2022.5.25 (201421484)

 

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れいこちゃん記念文庫の活動

 今日6月6日は井上れいこちゃんのセカンドバースデー(お命日)です。れいこちゃんが1年間小児がんと闘い、ついに星になってしまってから10年が経ちました。

 エル・ライブラリーのサポーターであったれいこちゃんを悼み、れいこちゃんの闘病を支えたNPO活動を支援するために、当館内にささやかな記念文庫を設置しています。難病とともに生きる子ども達と家族を支えるNPOの情報収集も行っています。

 れいこちゃん記念文庫の詳細はこちら

 毎年この日と直近の日曜日は、れいこちゃんのお父さんであり空手家図書館員である井上昌彦さんがご自宅を開放して「れいこパーティ」を開催されます。れいこちゃんを知る人たちが三々五々集まり、れいこちゃんを想いながら楽しく過ごすという趣旨です。残念ながらこの2年間はコロナ禍のためにこのれいこちゃんパーティが中止となりました。今年は3年ぶりの開催となりましたが、当館スタッフは仕事のため参加することができませんでした。

 毎年この日を期して当館内に設置している募金箱を空けます。一年間にたまった金額にスタッフが私費を足してまとまった額(といっても些少)をチャイルド・ケモ・ハウスほかに送っています。 

www.kemohouse.jp

 れいこちゃんパーティには参加できませんでしたが、今年もささやかな寄付を送りました。エル・ライブラリーはお子様たちの闘病をささえるNPOなどの市民活動を、ほんの少しでも支えられることを願っています。

 井上れいこちゃんのお父様である井上昌彦さんは、「情報のチカラで、世界をもっと幸せにする!」というビジョンの実現を目指し「空手家図書館員の奮戦記」というブログを公開されています。 

れいこの闘病中、皆さんの応援に支えられ、頑張ることができました。
それは言ってみれば、自分が情報を発信した結果であり、そして皆さんが発信してくれた情報を受け取ったからです。

れいこの闘病に加え、図書館員という立場とあいまって、私は「情報」の持つ意味やチカラを、さらに強く感じるようになりました。
この「情報」が持つチカラで、世界をもっと幸せにしたいと思います。(空手家図書館員の奮戦記 2013.5.22)

karatekalibrarian.blogspot.com

 井上さんのこのブログは、「わたしたちは情報の力で世界を幸せにできているのだろうか、人々が傷つけあわない平和な世界を情報の力で築けるのだろうか」と自らに問いかけることを思い出させてくれます。情報の力をわたしたちに教えてくれたれいこちゃん、お空の上で笑って見ていてくれるかな。(谷合佳代子)

◆エル・ライブラリー設立の趣旨(2008.10.21)

その3「NPOや草の根市民団体の機関紙などを収集・保存し、市民の社会的活動に利する情報を提供することを目的とする」

新着雑誌です(2022.6.3)

今週の新着雑誌です。

新着雑誌のうち最新のものは貸出できません。閲覧のみです。

人事実務 No1233 2022.6.1 (201421559)

労務事情 No1449 2022.6.1 (201421385)

賃金事情 No2849 2022.6.5 (201421419)

企業と人材 No1112 2022.6.5 (201421443)

労働判例 No1262 2022.6.1 (201421583)

労働法学研究会報 No2766 2022.6.1 (201421476)

地域と労働運動 261 2022.5.25 (201421534)

 

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『スクリーンに息づく愛しき人びと』

熊沢誠著『スクリーンに息づく愛しき人びと : 社会のみかたを映画に教えられて』耕文社  2022.4   19cm  207p

エル・ライブラリーにて割引販売中! 

税込み定価1980円→特価1600円!(送料1冊180円)

お申し込みは お問合せ - エル・ライブラリー からどうぞ。

 不肖私が帯に推薦文を寄稿した本書をご紹介します。言及される映画は90作近く、そのほとんどを自身も見ていることに我ながら感動したわたくしでございます。

 さて、本書の著者は労働研究の泰斗として名高い熊沢誠さん。大の映画ファンとしても知られ、その端麗な文体で織りなされる映画愛は読む人の心を安らげ、温かくしてくれます。心だけではありません。脳みそへの刺激もしっかり受けて、映画の様々な背景に思いが至り、勉強になる/勉強しようと思わせる本でもあります。そして何よりも、著者本人の言葉を借りれば、「映画へのどうしようもない愛執」を語る一作です。映画ファンにはたまらない言葉ですね、映画愛執。

 全28話に及ぶ映画語りは、「Kokko」誌(国公労連編集)での2015~21年の連載を元にしています。各話のタイトルに挙げられている作品はいずれも最近のものですが、その映画にインスパイアされた過去作や関連作品も数多く言及されます。アクションあり、メロドラマあり、戦争もの、歴史ドラマ、社会問題、事件・事故、とさまざまな素材を扱った作品群です。とはいえ、ホラーは皆無、アニメとSFはほんのわずかで、著者の好みの偏りがはっきりしています。当然にも著者はもっと多くの映画を観ているわけですが、その中からこれぞというものだけを厳選して語っています。そうなると選ばれた作品は自然といわゆる「社会派」に行きつくのでしょう。

 取り上げられた映画は称賛されているだけではなく、時に厳しい批判の眼も向けられています。その論点に首肯するのも違和感を持つのも読書の楽しみでしょう。映画を観て社会・労働問題を知る。映画を楽しみながら映画に学ぶ。一粒で何度でも美味しい映画鑑賞の方法と読書の楽しみを味わわせてくれる本書を読んで、映画を観て、ともに語り合いませんか?(谷合佳代子)

目次

序にかえて
第1話 階級連帯の内と外 『パレードへようこそ』『ブラス!』『リトル・ダンサー』
第2話 日本・一九四五年八月 『この国の空』『日本のいちばん長い日』
第3話 引き裂かれた妻と夫の再会 『妻への家路』『かくも長き不在』『心の旅路』
第4話 狂っているのはどちらか 『天空の蜂』『生きものの記録』
第5話 『明日へ』の『外泊』 韓国の非正規女性労働
第6話 山田洋次が見失ったもの 『母と暮せば』への軌跡
第7話 限られた生の証をいとおしむ 『わたしを離さないで』
第8話 『64─ロクヨン』の厚みと熱量
第9話 〈労働〉のリアルをみる憂鬱 『ティエリー・トグルドーの憂鬱』『ナビゲーター』
第10話 かけがえのない出会いに賭ける 『怒り』『悪人』
第11話 トランプ時代の『トランボ』観賞
第12話 日本の女性の半生・淡彩と油彩 『この世界の片隅に』『にっぽん昆虫記』
第13話 サフラジェット賛歌 『未来を花束にして』
第14話 アンジェイ・ワイダの遺したもの 『残像』『カティンの森
第15話 「頑張れ!」の届く地点はどこに 『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』『川の底からこんにちは
第16話 二〇一七年の映画ノートから 『夜明けの祈り』と『黄色い星の子供たち』 『わたしは、ダニエル・ブレイク』と『リフ・ラフ』
第17話 報道の自由とベトナム戦争 『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』『ハーツ・アンド・マインズ』
第18話 仮構の家族の絆と危うさ 私の『万引き家族』鑑賞
第19話 八〇年代の韓国・民衆抵抗の息吹 『タクシー運転手 約束は海を越えて』『1987、ある闘いの真実
第20話 企業告発における「外部」と「内部」 『七つの会議』『空飛ぶタイヤ』
第21話 ふたつの「希望」 『僕たちは希望という名の列車に乗った』『希望の灯り
第22話 『長いお別れ』の不思議な明るさ
第23話 格差社会を抉る二つの秀作 『ジョーカー』『家族を想うとき』
第24話 『Fukushima 50』の光と陰
第25話 兵士の帰還 『ディア・ハンター』『我等の生涯の最良の年』『ハート・ロッカー
第26話 『真昼の暗黒』をめぐって
第27話 子どもたちの受難 『存在のない子供たち』『異端の鳥』
第28話 ホワイトカラーの従属と自立 『アパートの鍵貸します』『私が棄てた女』
あとがき
本書で語られる映画 タイトル・監督・そのほか