エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)

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『働く女たちの記録21世紀へ ―次代を紡ぐ(公募編)』

 本書は、1994年に『次代を紡ぐ 聞き書き−働く女性の戦後史』(耕文社)を編纂した「関西女の労働問題研究会」が、20世紀が終わろうとする時期に第2弾として、「伝えたい、残したい、働く女たちの記録 ― 私はこう働いた 見た 聞いた 挑んだ!」という呼びかけで、賞金つきの公募をして、編纂した書である。


 前作は、戦後の混乱期から先頭に立って女の労働権を切り拓いてきた30名の労働組合女性リーダー、いわばパイオニア聞き書きであった。本書は、労働運動に限らず、もっと幅広く女性の仕事や暮らしの営みがどのように紡がれてきたか、歴史が刻まれてきたかの記録を一般に公募し、25名の応募の中から入選者12名について、編纂者が一人一人に出会い、もっと書き込んでほしいところを補強し、プロフィール等の形式を統一して、編纂している。
 審査委員は、竹中恵美子・大阪市立大学名誉教授、中西豊子・松香堂書店代表取締役と当研究会代表。「講評」では、「男性の経験のみが歴史化され、女性の経験がとるに足らぬものとして無視され、消去されてきた20世紀は、真に人間の歴史の全貌を記録してこなかったのではなかったか。あたりまえの女たちの歴史をもっと掘り起こし、それを女たちのエンパワーメントにつなげていくことの重要さ」を説き、女性史を紡いでいく共同の想いが伝わる。
 構成は、賞の順位ではなく、内容を類型化して「しごとと働く者の尊厳」「仕事と出産・育児・介護」「継続・しごとが私を変える」「しごと・こころとからだ・人権」の4章立てとなっている。
 最優秀賞は、学童保育指導員の労働者としての誇りと労働組合づくりの過程を、創設者に現役の3人が聞き書きしたもの。“放課後の子守ぐらいパートで十分”という行政や議会の安上がり施策に対する、体当たりの行政交渉、「仕事に責任をもてる」条件を獲得するために、自らの力で労働組合を結成して一人一人の仲間を獲得してきた歩みが、後輩たちの聞き書きによって、生き生きと伝えられている。まさに次代への確かなバトンタッチである。
 優秀賞2人のうちの1人は、京ガス賃金差別事件原告で、提訴までの壮絶な闘いが克明に記述されている。後に京都地裁判決で全国初の「同一価値労働同一賃金」判決をかち取り、勝利和解を獲得し、日本におけるペイ・エクイティ運動の先駆者となるが、この記録が支援の輪を広げる広報のひとつとして活用された。
 もう1人は、産婦人科医として日々の臨床や地域でのチーム医療、働く女性の立場に寄り添っての労働医学的な戸別訪問調査や講演・執筆活動などを通し、労働基準法改悪反対運動における重要なオピニオンとなっていく過程を記している。
 優秀賞のこの2人は40歳後半から50歳にかかる同世代だが、「人との出会いがこれほど対照的な例も少ない」と「講評」で指摘されているのも、興味深い。
 公募だけに、どこにも掲載されていない記録、美容師、ホームヘルパー、銀行員、看護婦等幅広い職種の「女のしごと」、女であるがゆえに直面する苦悩に挑んだ人生と、社会制度が不十分な時代の子育ての苦労と育児施策への提言などがリアルに記述されている。
 40年間働いたが、「一度も労働組合員になれなかった」非正規労働を続けながら、平和運動に真剣に取り組む姿。セクシャル・ハラスメントを受けた傷跡と重圧感を、「自分の胸苦しい思いを書き残したい」と記録し、「仕事が私にくれたもの」のふり返りの中で立ち直る過程の記録・・・、など、ひたむきな女性たちの生きざまが真摯に表現されている。
 巻末の年表「二十世紀 働く女たちのしごとと暮らし百年」は、女たちがどのような時代を生きてきたか、応募作品に登場する職種も意識しながら、女性のしごとや暮らしがどのように変遷してきたかを理解するために編纂され、百年が30頁に凝縮されているが、それ自体一つの作品となっている。(伍賀偕子)

<書誌情報>
働く女たちの記録21世紀へ:次代を紡ぐ(公募編) / 関西女の労働問題研究会編 松香堂書店, 2000 271p

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