自治労大阪府職員組合総務支部長（以下支部）で、現職のまま逝去した紀ノ本正則(1944-1994)を偲んで、その年に組合員総出で取組んだ追悼集。
180頁の読み応えのある内容で、故人の人となりはもとより、現場の組合員のための組合活動の原点や、市民運動との信頼で結ばれた連帯の深さ・広さが、うかがい知れる。
職場は、25職種を超える組合員で構成され、多くの現業職種を抱えた支部活動は、現業合理化から職場と組合員を守る運動が重要な柱として位置づけられ、原則的に粘り強くたたかって守り抜かれてきた。電話交換手、タイプ室、印刷部門、運転手、ボイラー、守衛等、技術革新の波と財政再建を口実とする合理化に対し、府民の「世論」も意識しながら、現業職場を守り、職種転換についても一人一人の立場を尊重する組合活動。組合員一人一人の生活丸ごとの悩み・相談ができる支部長への信頼感が、座談会「現業職場を守る闘い」で語られ、組合運動の原点が示されている。「女性関係や金の問題で悩んでいる人も、大やけどにならんうちに紀ノ本さんに相談した人は、今も元気に働いています。組合が、職場の問題だけでなく生活丸ごとハウマッチ的なものと思えるようになったのは、紀ノ本さんのなんでも相談できる雰囲気が大きかったと思います。人間的な信頼感がありましたな。それが組織への信頼につながっていんたんや」と。
組織の中を守ることだけでなく、反戦・反核・環境・情報公開等、地域の労組や市民運動との共闘の諸課題に、庁内の専門的分野からの政策提言や市民運動との共同行動に積極的に参画し、大阪総評・同東地協や地域の市民運動から総務支部全体への信頼を得ており、追悼の言葉にも多く示されている。
林野火災防災訓練への自衛隊参加反対の府への申入れと現地抗議行動、熊取町の京大原子炉２号炉増設の白紙撤回、全国的にも先駆的な情報公開条例を制定させた運動、有害物質・有害廃棄物等の環境行政など、各分野に支部活動家を配置して、それぞれが大阪全体の運動における貴重な役割を果たし、本書にもユニークな追悼の言葉を寄せている。
総評東地協におけるユニオンひごろや高麗労働者連盟、ヨネミヤ労組はじめ争議組合への連帯支援も、単発的なお付き合い共闘ではなく、相手の立場に立った積極的な提言・意見を含め、人と人との繋がりにまで深められていることが、各人の言葉から読み取れる。総評を総評たらしめていた「地域共闘」は、このような人たちと地道な運動によって築かれていたのだということを、改めて学んだ思いである。
職場での組合運動だけでなく、居住地摂津市での「摂津の教育を考える会」や十三高槻線建設反対運動など、市民としての活動とそこでのリーダーシップにも目を見張る。
国際連帯活動も同様である。東・東成日朝共闘に支部活動として結集し、府職員採用における国籍条項撤廃申し入れ、「政治犯」救援活動、映画「イルム（名前）」上映運動、外国人登録法改悪阻止・指紋押捺反対、アジアスワニー労働者支援等々。そして、フィリピンとの連帯活動、フィリピンのスラム活動家やフォーク・デュオ＝イナン・ラヤの招請交流活動。これらは、「今日の日本の『繁栄』や『平和』が、東南アジア人民に対する徹底した収奪と犠牲の上に成り立っていることをもっともっと痛切に感じなければならない」と書いた紀ノ本の意思が反映されたものと言えよう。
リーダーの突出した個性に依拠するだけではなく、支部の多くの活動家が、指示ではなく自分の意思で共闘の場で自由に本領を発揮し、それらが支部長・書記長のもとで組合運動として集約され、魅力ある組合運動を創り出していることも、本書に寄せた仲間の信頼感から伺える。
まさに「開かれた労働運動」「運動は人なり」を体現していると言える。（伍賀偕子）
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