エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)

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『困ったときには図書館へ 〜図書館海援隊の挑戦〜』

l-library2014-11-29
 神代 浩 著 (悠光堂2014年10月) B判207頁

 図書館と言えば、“無料貸本屋”、それ以上何をするところ?というようにイメージが広がらない人が多いと思う。全国に図書館の数は、3,274館ある(2011年10月文科省調べ)。他の社会教育・文化・文化・体育施設には図書館より多い施設はあるものの、半世紀以上にわたって一貫して増加傾向にあるのは、図書館だけである。とは言え、利用者は、頻繁に活用するヘビーユーザーと全く利用しない人たちとに分かれている。
 本書は、そんな固定的な図書館に対する認識を払拭し、現実の図書館のイメージを膨らまし、未来像も導いてくれる。

 著者は元文科省社会教育課長で、今も現役の「役人」ではあるが、文科省の業績発表的なものではなく、全国各地の図書館で頑張っている熱くて高い志をもったライブラリアンに直接呼びかけて、ボトムアップ方式で創造した「図書館海援隊」の豊かな報告であり、全国各地で活躍している熱いライブラリアンと、都道府県のまちづくり政策をも動かすネットワークの豊かさがいきいきと描かれている。

 「図書館海援隊」は、2010年1月5日に発足した。そのきっかけは、2008年年末の「年越し派遣村」にある。そこに集まった失業者約500人、駆け付けたボランティア1680人の動きが事態を社会問題化させ、厚生労働省をして講堂を宿泊所として1月2日から5日まで提供するに至った展開に著者が接する中で、最低限の衣食住が提供されたとしても、次の仕事を探すという気持ちになれるだろうかというモヤモヤとした問題意識が浮んだことからスタートする。

 この直後に文科省社会教育課長に異動となった著者は、鳥取県立図書館をはじめ首都圏の図書館現場に足を運び、「元気な」ライブラリアンたちに接する中で、「派遣切りなどで失業した人々に対し、図書館として何かできることはありませんか?」と投げかけた。数時間後に返ってきたメールには、「労働者の直面する問題と図書館のできること」という図表が送られてきた。(この表は今も、文科省のホームページで見ることができる)

 この表を自分のネットワークに送り、「失業者支援のために皆さんの図書館で出きること」を尋ねたら、7つの図書館が答えてくれた。これらの7つの図書館の職員を中心に発足したのが、「図書館海援隊」である。注目したいのは、これらの働きかけは、文科省からの「失業者向けの新たなサービス展開」の指令や上からのアンケートという形で始まったのではないということである。「海援隊」の命名は、坂本龍馬が立ち上げた「海援隊」の精神にのっとって、「都道府県・市町村立の垣根を超え、図書館の力で日本を良くしたいという志」からである。鳥取県立図書館では、この提起を受けて、「働く気持ち応援コーナー」を設置し、ハローワ−クの求人票や資格取得や就職支援の本などを1か所に集め、利用者がワンストップで目的が達せられるように工夫して、開設には知事も並んでテープカットした(「就職支援コーナー」的なネーミングでない点も工夫されている)。

 続いていろんなプロジェクトが誕生した。「サッカー好きなら図書館へ」「がんになったら図書館へ」というように。
 海援隊「サッカー部」誕生は、Jリーグを中心として、JFL、社会人リーグ、なでしこリーグなどに所属しているクラブチームと図書館が協働し、プロスポーツチームを核としたまちづくりなど地域活性化の視点から、連携事業を実施することに広がった。「図書館からスタジアムへ行こう=スタジアムから図書館へ行こう」の合言葉で「本なんか読む暇があったら身体を動かしたい」という若い世代をも図書館に誘うプロジェクトである。

 2011年3月11日の東日本大震災に対しても、「全国の図書館が被災された皆さまにできること」を発信するとともに、避難所に寄贈された本の整理についても図書館の出番がたくさんあった。ここでは、図書館海援隊としてどれだけの力になれたか、じくじたる想いと今後の検証の必要性が語られている。

 「がんになったら図書館へ」も、医療健康情報コーナーの多様な工夫・実践が語られている。たとえば、患者を勇気づける「闘病記文庫」は、書名だけでは検索できないが、日記やルポに分類されているものを医学の本と一緒に並べることで利用しやすくなる。
 豊かな実践例は、直接実践者の報告が第2編で掲載されている。地域住民が図書館を、「無料貸本屋」でなく、自分たちの課題解決を助けてくれる公共施設と認識すれば、「自分たちの生活を改善し、自分たちの住む街を良くするためには、図書館が役に立つ」という気づきが生まれる。これこそが「図書館のアドボカシー」であると著者は語る。

 書名の「困ったときには図書館へ」は、こんな熱い想いを表している。

 7館からスタートした「海援隊」は2013年12月で50館に広がっている(関西では、滋賀県東近江図書館、大阪市立中央図書館、大阪府熊取町熊取図書館の3館)。文科省のホームページで、「図書館海援隊」を検索すれば、この取組みが確実に位置付いていることがわかる。(伍賀偕子)

<書誌詳細は下記リンク先へ>
困ったときには図書館へ / 神代浩編著.