エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)

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エル・ライブラリーが取り上げられている2冊

 近年、資料のデジタル化やネットワーク化が進展する中で、アーカイブやMLA連携(MLAとは、博物館・美術館、図書館、文書館のそれぞれの英語の頭文字をとったもの)について書かれた本や記事を目にするようになった。今回紹介する2冊もそうである。

 1冊目の『デジタル文化資源の活用―地域の記憶とアーカイブ』は、NPO知的資源イニシアティブが3回にわたって開催した日本におけるMLA連携の方向性を探るラウンドテーブルをベースに、その意義や可能性と具体例などを取り上げ、議論と実践の中で明らかになってきた課題を明確にし、その課題を解決していく上での方向性を提示している。

 第1部は、国立西洋美術館長、国立国会図書館長、国立公文書館長の専門家三者による鼎談「記憶のちからー何を残していくべきか」を収録したもので、MLA連携のあり方や現実的な政策提言が語られている。この本は4年前に出版され、まえがきで「この鼎談が東日本大震災の直後に行われたということも意識してお読みいただくと、この先、私たちが目にするだろう様々な政策がまた違った観点で見えてくるはずだ」と強調している。
 第2部「『連携』から『活用』へ」では、連携の実践例とともに問題点や課題と今後の方向性を示している。実践例では、MLA連携の重要性が議論される以前から取り組んできたエル・ライブラリーと、「地域情報は住民のなかにある」として住民を中心に取り組んだ北摂アーカイブスの大阪の2つの事例が紹介されている。
  
 最後の第3部「求められる制度と政策―デジタルアーカイブ構築をめざして」では、デジタルアーカイブとして知られる情報技術を活用したデジタル文化資源を蓄積しつつ、その活用を図るための人材育成、財源、知的財産のあり方に関する政策を提言している。
現在、「あとがき」にもあるように、戦争に関する記録が散逸し、記憶が薄れていく中で、書物でも美術でも公文書でもない、個人の記録や記憶を残そうと自治体や民間団体の活動が始まっている。

 本書は、人間のあらゆる知的活動の所産である「文化資源」を保存・活用するための手段として、文化資源のデジタル化を中心としたMLA連携の可能性をテーマとしており、現代を生きる私たちが後世に残していかなければならないものは何か、社会の記憶をどのように次世代に引き継いでいけばよいのか、という問いかけに対する手がかりの一つになる本である。


 二冊目の『デジタル・アーカイブの最前線』は、東日本大震災の4年後に出版されたものである。大震災をきっかけに、その悲劇を風化させず、教訓を将来の世代に伝えるために、記録を保存しよう、アーカイブにしようという動きが一気に高まった。情報通信手段の高度化は、気軽に、だれでもいつでも写真や動画の撮影とその伝達ができるようになり、世の中にはこれまでと比較にならない大量の情報が溢れるが、社会の動きがあまりにも急速なため、これらのほとんどは直ちに消費され、消滅していく。このような現状に対する危機意識から著者は「このままでは現代は、後世から見て、記録や歴史遺産が何もない時代となってしまう恐れがある。災害の記憶はもちろん、活字、映像、ウェブサイトなどで流通している種々雑多な情報はすべて、われわれがこの時代を生きた記録であり、未来に残すべき貴重な知的財産である」(まえがき)と述べている。
 本書は、様々な情報を電子的に保存するデジタル・アーカイブの考え方や方法と、乗り越えるべき問題を解説したもので、次の5章から構成されている。(谷垣笑子)

  • 第1章 歴史を記録するアーカイブ(震災アーカイブの例として、エル・ライブラリーも参加した博物館・美術館、図書館、文書館、公民館の被災・救援情報サイトを紹介)
  • 第2章 文化を記録するアーカイブ
  • 第3章 活字を記録するアーカイブ特定秘密保護法の問題とともに、支援者の寄付と職員の頑張りで労働関係の資料を保存しているエル・ライブラリーの活動を紹介)
  • 第4章 アーカイブの技術
  • 第5章 これからのアーカイブ