エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)

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『生産性向上の理論と実践』

(梶浦昭友 編著/2016年3月30日/A5版 本文224頁)

 当館の理事長・山﨑弦一も筆者のひとり。

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 本書は、関西学院大学産業研究所が日本生産性本部からの委託研究「生産性向上と雇用問題」(2009~2010年)を受けた後、共同研究「生産性の現代的意義」(2012~2015年度)を行いその成果を1冊の本にまとめたものである。

 本書の第I部(第1~8章)は生産性についての理論や歴史が書かれ、第II部(第9~14章)は企業や企業内組合における生産性向上の実践例が、その当事者自身によって取り上げられている。

 本書の理論的観点は、おもに第1章で書かれている。その第1は、生産性向上運動を受け継いでいることだ。とりわけ、「生産性の3原則(1.雇用の維持・拡大、2.労使協議、3.成果の公正分配)」は他の章でも随所で強調されている。
 第2の観点は、これ自身、生産性向上運動の一環でもあるが、「人本主義経営」を名乗っていることだ。一般の資本主義経営の観点は、投資家が資本を提供しこの資本で土地・建物・機械などの固定資本、原料、労働力を買い、製品を作り、それを売って利益を得るというものであり、固定資本・原料・労働力を可能な限り切り詰め、利益の極大化を図るものである。それに対し、「人本主義経営」の観点は、資本とともに労働も経営の主役とみなし、利益とともに賃金も増やそうとする。
 第3の観点は、「付加価値」である。「人本主義経営」においては、「付加価値」= 利益 + 賃金 となる。
 第4は、生産性経営論(人本主義経営論)である。これは、両端に資本Kと利益Rを置く資本の軸と、両端に労働Lと賃金Wを置く労働の軸を設定し、真ん中の軸として、資本と労働の合流による生産O、それに価格Pを掛けた売上高OP、OPからコスト(一般の資本主義経営論では賃金もコストだが、人本主義経営論ではコストに含まない)を引いた付加価値Vを置き、最後に付加価値Vを利益Rと賃金Wに分割する。このように3つの軸と2つのループを設定することで経営分析を進めていくものである。

 K←←←←←←←←R
 ↓        ↑
 O×P=OP-C=V
 ↑        ↓
 L←←←←←←←←W

 第5の観点は、物的生産性と価値生産性とである。物的生産性とは、たとえば機械1台あたりの生産量(物的資本生産性)や労働者1人あたりの生産量(物的労働生産性)などを指す。他方、労働者1人あたりの売上高などは価値生産性である。本書では、造ったものが全て売れていく時代ならば物的生産性を上げるだけで良かったが、今では価値生産性が重要になっていると主張している。
 第6に、生産性向上の方法を分析するために、生産性向上の公式を掲げている。それは、次のようなものである。

 生産性 = 資本集約度 × 資本回転率 × 付加価値率

V(付加価値)/L(労働者数) = K(資本)/L(労働者数) × OP(売上高)/K(資本) × V(付加価値)/OP(売上高)

OP(売上高)/L(労働者数)

1人当たり売上高

 この式から、生産性を上げるためには、資本集約度を上げるか、資本回転率を上げるか、付加価値率を上げるかの3つの方法しかないことがわかる。ただし、具体的方策となると多様であるのだが。

 本書第2章では、生産性運動の過去・現在・未来が叙述されている。1952年のメーデー事件、破防法反対スト、3か月におよぶ電産スト、炭労スト、1953年の日産化学ストなど大規模な闘いに直面し日本資本主義は危機的状態にあったこと、それに対し、西ドイツの組合は政治闘争をやめ、労働組合の経営参加という枠組みの元で経済主義に一変したことなどが、訪欧査察により明らかになったこと、それをきっかけに財界団体が生産性機関設置へと動き始めたことなどが述べられている。
 第3章では5S活動(整理・整頓・清掃・清潔・躾)など、より具体的な生産性向上運動について述べられ、第4・5章では生産性の構成要素や成果の配分について、6章では労働生産性と賃金率との関係、7章では非正規雇用者が企業に与える影響、8章では研究開発投資と生産性との実証分析がなされている。

 これに対し、第II部(第9~14章)では、各企業の自己紹介の趣が強く、また同じく「生産性向上への取組み」と言ってもそれぞれ個性的である。そこで、第14章(パナソニックグループ労働組合連合会。この章の著者は大阪社会運動協会の理事長である)から二つの取組み事例を取り上げ、代表として紹介したい。
 一つはワークライフバランスの取組みであり、個人に対しては“気づき”を与えつつさまざまなニーズを持った個人をつないでいき、社会に対しては政策・制度の取組みや地域活動を推進していき、企業に対しては労働条件や各種制度改善に向けた取組みを展開している。
 もう一つは技術者活性化フォーラムの取組みである。技術者の活性化のため、労働組合としてこれまで3回のフォーラムを実施してきた。

 この他の実例としては、新日鐵住金ダイキン工業スーパーホテル大阪ガス田辺三菱製薬労働組合が紹介されている。(ボランティアN)