エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)

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『つながる 寄りそう 支え合う 労働者福祉中央協議会結成70周年記念誌』

労働者福祉中央協議会(2020年3月/私家版/A判32頁)

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  本冊子は、全国各地で活動している「労福協」の中央組織結成70周年を記念して発刊された。

 日常的に労働組合運動を担っている人々でも、「労福協」というと、大単産や労働福祉団体の幹部によって運営されている、自分たちに縁の遠い上部組織だと思い込んでいる人たちも多いのではないだろうか? そう思っている人たちに是非読んでほしい冊子である。

 本冊子は、2010年以降の取組みを重点に編集されているが、発足時の運動を知る機会が少ないので、初期の時代を中心に紹介して、私たちの生活にとっての身近さを共有したい。 

<飢餓から生活物資の調達の共同行動へ>

 「中央労福協」は1949年8月30日、「労務者用物資対策中央連絡協議会」(中央物対協)として発足した。敗戦直後の食糧危機と生活物資不足が深刻な中、生活物資の確保をめざした運動の全国的な共同行動の機関が必要という切実な機運の中から生まれた。担ったのは、分立していた労働団体(総同盟、産別会議、全労連)、各産別組織、日本協同組合同盟(後の日本生協連)など36団体の結集による。

 中央物対協としての運動は1年で、1950年9月には「労働組合福祉対策中央協議会」(中央福対協)に組織改編されるが、結成当初から、イデオロギーや考え方の違い、組織の枠を超えて、福祉の充実と生活向上をめざすという一点で統一して結集をはかるという指針が明確で、その創業の精神は、今も「福祉はひとつ」として、中央労福協の原点とされている。 

労働金庫、労働者共済の設立=労働者自主福祉運動>

 1957年には、「中央労福協」に改称し、「労働者のための福祉」(対象)と「労働者による福祉」(主体)の両面を備えた運動に発展していく。労働者による自主福祉事業とは、労働金庫と労働者共済の設立である。高利貸しからの解放を求めて「労働者の労働者による労働者のための銀行」設立をめざし、1950年9月岡山県勤労者信用組合を先駆けに、各地の取組みの機運の結果、1953年の労働金庫法制定につながる。そして、1953年に「全国共済団体連絡会議」が設立され、54年に大阪で、翌55年に新潟で火災共済事業が開始された。新潟では、発足5か月後に「新潟大火」が発生し、その迅速な対応に、社会的評価を高めた。今日のこくみん共済coop(全労済)誕生の契機である。 

<「つなぐ」役割と「つなぐ」運動>

 1989年の「連合」結成に伴い、それまで労働4団体間の調整機能を担ってきた労福協の存在意義が問われることになり、1993年に「中央労福協指針」を策定して、組織労働者を対象とする労働者福祉から、中小企業や未組織労働者さらには国民福祉へと、運動の領域を広げていく。

 21世紀に入り、新自由主義政策による貧困や格差の拡大とゆがみが深刻化し、2009年には、「労福協の理念と2020年ビジョン」を策定して、「新自由主義からの転換点に立つ」との時代認識のもとに、「連帯・協同でつくる安心・共生の福祉社会」をつくるために、労働運動と労働者福祉事業が「ともに運動する主体」として力を合わせ、労福協がそのコーディネーター機能を果たすよう、提起した。さらに、2019年11月に「労福協の2030年ビジョン」が策定され、「貧困や社会的排除がなく、人と人のつながりが大切にされ、平和で、安心して働きくらせる持続可能な社会」をめざして、全国・各地域で「ともに運動する」関係づくりを進めている。

 いささか理念やビジョンの紹介に偏りすぎたが、地域から積み上げ、全国運動に高めて社会的共感を呼ぶ具体的な運動展開については ―「クレ・サラ高金利引き下げ運動」では341万筆の署名を積み上げ、43都道府県、1136市町村で採択された地方議会意見書をバックに、貸金業法改正が2006年に成立、また、生活保護基準引き下げ阻止や最低賃金の底上げ等を求める「反貧困全国キャラバン」、さらには、若者を苦しめる奨学金制度の改善をめざして、給付型奨学金制度導入を求める304万筆署名をもとに、2017年3月給付型奨学金制度の創設が実現、等々 ― まだ記憶に新しい全国運動、そして、全国各地域の地方労福協のライフサポート事業とシェルター、子ども食堂やフードバンク等々、特徴ある多彩な活動が日常的に展開されていて、身近に接することが出来る冊子であり、ご一読をお勧めしたい。(伍賀 偕子<ごか・ともこ> 元「関西女の労働問題研究会」代表)