エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)

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『ワークルール教育のすすめ』『新型コロナウイルス対策!職場の労働問題Q&A』

Ⓐ『ワークルール教育のすすめ』道幸哲也旬報社/2020/A5判138頁)
Ⓑ『新型コロナウイルス対策!職場の労働問題Q&A 働くものと企業を守る』浅野高宏、倉茂尚寛、庄子浩平著/道幸哲也監修/一般社団法人日本ワークルール検定協会協力(旬報社/2020/A5判64頁)

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 Ⓐの著者でⒷの監修者である道幸哲也(どうこう・てつなり)は、北海道大学名誉教授で、一般社団法人日本ワークルール検定協会の会長、NPO法人職場の権利教育ネットワーク代表を務め、北海道労働委員会元会長、日本労働法学会元代表理事など、学問的にも、実践的にも、ワークルール教育の第一線の専門家である。

 「ワークルール教育」とは何か、「労働法」教育とどこが違うのか、社会的に今何故強調しなければならないか、ワークルール教育を構築し、拡げるために何が必要とされているのか ― をⒶは、明快に解説している。

 そして、Ⓑは、ワークルール教育の、新型コロナウイルス対策に絞りこんだ実践版で、YouTubeと連動して、「働くものと企業を守る」テキストというふれこみである。

 Ⓐのワークルール教育は、職場において働く主体が自らの権利を実現するという実践的目的をもつ教育である。その前提として法的なルールの特徴や労働法の全体像の知識が必要であり、それをふまえて「具体的紛争の解決」に着目する。①問題の発見・認識、②関連する法的ルールの把握、③権利実現の手立ての検討が必要であり、これらは、主に対立構造での議論を通じて行う。重要なのは、労使紛争の解決とは何か、解決の意味、さらに法的なレベルの限界についてまで配慮することである― と規定し、実際に働く主体としての市民的感覚が重要視されると。

 第Ⅱ部では、権利主張に対する職場の抑圧システムが、いくつもの裁判例の検討を通して、説得的に分析されていて、特に労働契約法の理解に役立つ展開がなされている。

 第Ⅲ部は、ワークルール教育をどう構築するか、「権利を実現する資質」と「教育の担い手」について述べ、ワークルール教育が何故身近なものにならないかを、現実の教育の構造や職場の抑圧構造を分析して、克服の方向性を導いている。

 興味深い主張 ― 労働者の自立の観点からは、労働契約をめぐるワークルールを意味のある形でどう教育するかが最大の課題になると思われる。契約法を前提にしなければ、労基法等の強行法規の意味を的確に理解し得ないからである。しかし、これはきわめて困難な課題である。とりわけ、対立関係を前提とした「合意」の形成は学校的な世界に最も遠い事象に他ならないからでもある ― は、高校教育におけるワークルール教育はどうあるべきかの基本的視座を提起している。どのような「労働者像」を想定するかの問題であると。交渉能力・情報収集能力が劣る従属的な姿が一般的としても、市民的自由の担い手であり、自尊感情をもつ自立と自己責任の主体でもあると。そして、連帯をどう教えるのかも重要であると。

  Ⓑは、「通勤電車で新型コロナにかかった!これって労災?」と、表紙で大きく問いかけているように、職場での「コロナウイルス対策」をワークルール教育として具体化した、わかりやすい実践書である。労働条件決定システム― 労働契約、就業規則労働協約の原則的な意義が、各論の展開の前提として、「はじめに」で解説されている。

 第1章「賃金」 第2章「解雇・契約解除」 第3章「安全衛生」の構成で、きわめて具体的な15の実例に沿った質問に対して、労働者の権利を守り抜くための確信を得る回答が展開されている。

 例えば、― コロナ禍でも当然に「雇止め」が認められるわけではありません― 「整理解雇の4要素(=①人員削減の必要性、②解雇回避努力、③解雇対象者の人選の合理性、④手続きの相当性)に準じた検討が重要で、この要件が満たされなければ解雇は無効である―と。

 「それってどうなの?というモヤモヤが、この1冊でスッキリ」という表紙のうたい文句の通りに、資料編も含めてコンパクトで説得的な実践の手引きである。(伍賀偕子<ごか・ともこ> 元「関西女の労働問題研究会」代表)