エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)

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『日本を変える~「新しい政治」への展望』

『日本を変える~「新しい政治」への展望』

五十嵐 仁(学習の友社/2020年12月/124頁)

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 本書は、学習の友社から刊行する著者(法政大学名誉教授、大原社会問題研究所名誉研究員)の四冊目の本である。一冊目は『対決 安倍政権』、二冊目は『活路は共闘にあり』、三冊目は『打倒 安倍政権』であり、今回の執筆の意図は、~「安倍なき安倍政治」としての菅後継政権を倒して野党連合政権を樹立させることで「新しい政治」を実現し、「日本を変える」展望を示しました。市民と野党の共闘の発展によって、このような「希望の政治」を実現する可能性が大きく膨らんで来たからです ~ と述べている。

 全体は、2部6章と補章による構成で、ほとんどは2020年前半に発表の論攷だが、菅政権発足を踏まえての加筆修正がされて、第2章の「新しい政治への展望~『ポストコロナの時代』にどのような政治が求められているのか」は書き下ろしである。

 菅政権発足に対して、「安倍亜流政権の存続を許さず歴史的な審判を」と規定して、安倍政権の歴史的位置を丁寧に検証している。「アベノミクスの虚妄」「外交・安保政策の漂流」「立憲主義の破壊と政治の腐敗」の各論ごとの検証は、今も継承されている政策・施策であり、改めて怒りが蘇ってくる。そして、その「最長にして最悪・最低の政権」(=国政選挙6連勝と内閣支持率の安定)をもたらした要因の分析も、説得性がある。なかでも、「教育による若者の取り込み」については、今後の展望に関わって注目すべき指摘である。

 本書に示された展望は、「市民と野党の共闘の発展」であり、第6章において、2019年参院選挙(安倍政権最後の国政選挙)の検証を通して、切り拓かれた政治的局面が明らかにされている。この選挙はメディアによれば、自公の勝利となっているが、選挙前の通常国会で3か月も予算委員会を開かず、野党の追及を避け続け、選挙後も臨時国会の召集を遅らせ、野党による閉会中審査要求も渋って論戦を避け続け、メディアも「争点隠し」を続けた。選挙の結果は、投票率48.8%で戦後2番目の低さとなり、投票所が最多時より6,400カ所も減り、投票時間の繰り上げもあったが、自・公合計は、参院過半数議席を維持した。しかし、自民党は9議席減となり、参院での単独過半数を割り、比例代表の得票を240万票も減らした。そして、比例代表での議席は与党26:野党24だが、得票率は、与党48.42%:野党50.12%となり、1.7ポイント野党が多くなった。最大の注目点は32ある一人区で、野党共闘が大きな成果を収めたことである。野党共闘の「上積み効果」が生まれ、比例代表で野党4党の得票合計よりも29選挙区で上回った。市民と野党の共闘統一候補が新たな受け皿となって、新しい革新無党派層を誕生させたと。

 市民と野党の政策合意がその大きな勝因となった。「野合にすぎない」という批判に対しては、この政策合意の進展を検証すれば、その批判は当たらない。その出発点は、2016年参院選に向けての「5党合意」で「安保法制の廃止」だったが、2017年総選挙では、「市民連合」が7項目の「共通政策」を野党に提示した。―①9条改憲反対 ②特定秘密保護法、安保法制、共謀罪法などの白紙撤回 ③原発再稼働を認めない ④森友・加計学園南スーダン日報隠蔽の疑惑を徹底究明 ⑤保育、教育、雇用に関する政策の拡充 ⑥働くルール実現、生活を底上げする経済、社会保障政策の確立 ⑦LGBT(性的マイノリティー)への差別解消、女性への雇用差別や賃金格差の撤廃―

 そして、今回の「共通政策」は、13項目となり、新たに加わったのは― ①防衛予算、防衛装備の精査 ②沖縄県新基地建設中止 ③東アジアにおける平和の創出と非核化の推進、拉致問題解決などに向けた対話再開 ④情報の操作、捏造の究明 ⑤消費税率引き上げ中止 ⑥国民の知る権利確保、報道の自由の徹底―の6項目である。

 著者は、これらの動きは、新たな連立政権に向けての政策的な基盤を示すものだと。

 さらに、国政レベルだけでなく、地方の首長選挙での市民と野党共闘候補の前進もこの方向性に弾みをつけている。「市民と野党の共闘」は「勝利の方程式」であると、明るい展望を示している。(伍賀 偕子<ごか・ともこ>)