エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)

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『地域から変える 地域労働運動への期待』

中村圭介 著(発行:教育文化協会/制作・発売:旬報社/2021年3月/ 四六判198頁)

地域から変える

 本書は、連合・労働組合必携シリーズ2で、同著者の『地域を繋ぐ』(2010年)に続く2冊目である。

~ 地域で働き、暮らす労働者や市民の抱える問題を解決することが連合の最優先課題であり、その運動の主体は地方連合会ではなく、地域に存在し「地域に根ざした顔の見える」地域協議会である~ と、著者は調査データーを踏まえて語る。

 第9回連合定期大会において、― 300の地域協議会(地協)のすべてに専従者(役員1人と職員1人)を配置し、固有に事務所を保有させるー という方針が提起され、実践に移された ―ことを、著者は、前著において、「静かな革命」と称した。それは、ナショナルセンターがいくつかの市町村を範囲とする「地域組織」すべてに専従者を配置しようとするのは、日本の労働組合運動史上初めてのことだからである― と。地方連合の仕事は、80%の未組織労働者に労働運動の影響力、求心力を増すことであり、そのためにこそ地協に専従者がいて、事務所がいつも開いている状態が必要だという認識を共有することであり、この共有に、「連合評価委員会」(中坊委員会)最終報告書が一役買っている― と、前著は述べている。 

 <二つの調査から>

 2冊目の今回は、地協が実際にどのような活動をしているのか、その実態を踏まえて今後の方向性を討議する素材としたいと、二つの調査を企画した。調査の一つは、47すべての地方連合と281地協のすべての組織、活動、財政を調べる質問票調査である(2018年連合総研報告書に収録)。

 二つ目の調査は、地協専従者が加盟単組を積極的に訪問し、かつ、幹事会の平均出席率が80%以上の地協を個票から12を選び出し、結果としては7つの地協の丹念な事例調査となった。この7地協とは、連合山形鶴岡田川地協、連合千葉外房地協、連合岐阜中濃地協、連合愛知尾張中地協、連合三重津地協、連合広島福山地協、連合福岡京築田川地協である。

 全体の構成は、第Ⅰ部:分析編と、第Ⅱ部:事例調査編の2部構成となっている。

 第Ⅰ部においては、「1.結束を強める活動」では、地協運営の要である幹事会を定期的に高い出席率(7割以上)で開催していくための努力がなされているが、まずは加盟単組を訪問することがもっとも重視すべきであり、5割以上の単組を訪問している地協は95地協=4割で、これをもっと高めるべきだと。メーデー、レクレーション、ボランティア活動への参加を組合員に積極的に呼びかけていく工夫を7地協の先進的な事例から挙げている。

 「2.力を高める活動」では、首長や議員の選挙活動に取り組んでいると回答した地協は271で、推薦首長を擁する地協は、195=7割である。推薦知事を抱える地方連合は、7割の33、支持・友好関係を結んでいる7地方を含めると44で、8.5割である。

 使用者団体との関係においては、春闘時に要求申入れを行った地協は59=2割である。春闘時以外で意見交換を行った地協は=1割である。

 「3.社会を地域から変える運動」で明らかにされるのは― 251地協=9割が街頭宣伝を行っている。連合の強みは全国各地でこのような運動を行えることである。地域から社会を変えるための政策制度要求は、207=3/4地協が市町村に対して行っている。

Ⅱ部の7地協の事例調査編は、多岐にわたっていて、ここでは要約できないのは残念だが、特徴的な先進事例は、第Ⅰ部で抜粋されている。 

<地域労働運動の可能性>

 分析の結果として、著者は、企業内組合の短所(=企業の外への関心、内部でも非正規への関心が薄い)を克服していく動きが、地協が行っている労働相談、生活相談、組織拡大、街頭宣伝行動、そして、政策制度要請の実際を集約すれば、確実に社会を変えつつある、すべての地協のエネルギーがそこに向いているとは言えなくても、可能性は目の前に広がっていると、断言している。

著者は、「私は運動の外にいる、一介の研究者である」と語りながら、~「データーは揃った」、後は「良い道」を、「結束を強める」「力を高める」「社会を変える」という一筋の道を ~ 提示した。そして、「地方連合、地域協議会は、「地域から社会を変えていく力を持っていると、心の底から思っている」と、ユニオン・リーダーにエールを送っている。(伍賀 偕子<ごか ともこ> 元「関西女の労働問題研究会」代表)