エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)

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『労働者と公害・環境問題』

法政大学大原社会問題研究所/鈴木 玲 編著(法政大学出版局/2021/A5判286頁)

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 本書は、法政大学大原社会問題研究所主催の「環境・労働問題研究会」(代表: 鈴木玲)が2014年11月より2020年10月までの24回の研究会を経て、そのメンバー7名により、執筆された。「これまで別々に議論されてきた『労働』と『環境』(公害)の問題の結びつきを、学際的に論議・学習することを目指して」研究・討議が重ねられた成果である。

 いささか長い引用になるが、テーマや論点が多岐にわたっているので、目次の紹介が

一番読みたくなる、関心を呼ぶのではないかと思って、そのまま紹介する。

 はじめに(鈴木玲)

第1部 環境運動、住民運動との接点

第1章「問うこと」から「応答すること」へ ―労働運動はいかにして合成洗剤問題に関与したか / 大門信也

第2章 住民運動としての公害反対運動と労働運動 ―公害防止倉敷市民協議会と水島地区労を事例として / 江頭説子 

第2部 職場環境と職業病への取り組み

第3章 日本の労働組合の職業病・職業がん問題への取り組み ―3つの職業病闘争の事例に基づいた考察 / 鈴木玲

第4章 韓国ハイテク産業における職業病と労働者の健康をめぐる社会運動 ―「半導体労働者の健康と人権を守る会(パノリム)」の取り組みを中心に  / 金美珍

第5章 労働運動の職場環境への取り組みとその限界 ―労働環境主義を志向した北米の労働組合の事例に基づいて / 鈴木玲

第3部 政治・政策アリーナにおける対応

第6章 政党はどのような公害観を持っていたか ―55年体制から1970年代初頭までを対象として / 友澤悠季

第7章 1970年代における自動車排気ガス規制の再検討 ―雇用喪失をめぐる議論をてがかりに / 喜多川進

第8章 労働組合運動と原子力発電 ―豪州のウラン採掘・輸出と労働組合の対応 /        長峰登記夫 

 各章の展開の紹介は省くが、研究会の共通認識として、環境社会学者の飯島伸子の「公害、労災、薬害は、いずれも主たる加害源を企業とする社会的災害である」の影響を受けたと、編者が述べている。~しかし、労働問題の領域にある労働災害職業病(労災職業病)と環境問題の領域にある公害や環境汚染の関係性を対象とする研究は、1980年代後半以降の日本における社会学研究では発展しなかった~と。~労働問題と環境問題の領域の研究上の結びつきが弱まり「ミッシング・リンク」が生まれた~と。本書は、~労働問題と環境問題の「ミッシング・リンク」を、各執筆者それぞれがもつ問題意識と分析視覚から、結びなおす試みである~と。

 5つの章(1章、2章、3章、5章、6章、7章)において、日本の労働運動、企業内組合が、公害・環境問題にどう取り組んだのか、どう住民・市民運動との連携をめざしたのかの記録と検証がなされていて、興味深い。書名にあるように、「労働者」=労働組合・労働運動が、企業内の組合員の権利と利益擁護を追求するにとどまらず、広く市民的・社会的立場に立って共通課題を追求する「社会運動ユニオズム」に通じる姿勢と実践過程は、社会労働運動史においても、貴重な研究考察だと思う。

 3つの章(4章、5章、8章)は海外(韓国、北米、オーストラリア)の実例であるが、字数の制限だけでなく、学ぶべき内容を伝える力量が私にはないので、省略する。

 一言だけ第1章に関わって付言すると、1970年代の合成洗剤追放・石けん運動に労働運動がどう主体的に関与したのかがテーマだが、資料の掘り起こしにエル・ライブラリーを訪ねられた執筆者が、40年前にしたためた私のつぶやきに近いような文章(『市政研究』第54号、1982年)に出会い、基調を構成する梃として引用されており、いささか恥かしいが、エル・ライブラリーを通した出会いとして、紹介させていただきたい。(伍賀 偕子 ごか・ともこ)