22.職場新聞(15)男と女 その2
結婚も当然、みんなの関心事である。
田舎にいるときは考えられなかった、職場での恋愛結婚に憧れる記事も少なくない。
「結婚は彦根で かぼちゃに恋人を‼
彦根も住めば都さ、私も絹糸に恋人でもいたら、職場結婚するんだけどなあ、田舎に帰って結婚するよりも、絹糸で暮したいもんですね、家にはもう半分話のまとまりかけた恋人がいるけども、やっぱり、製綿の男子の人が私のような、カボチヤでもよいでしたら、交際して下さいませんか
どうしても恋人がほしいのよ、みなさんお願いしますよ。」(絹紡製綿『蛹粉の中で』13号2面)
大手紡績会社に比べると給料が低かった近江絹糸の同僚達に現実的な目を注ぐ女性も多く、男性の不満も散見される。
「女性は云う
『絹糸の男は経済力がない』?と
女性は云う「絹糸の男は経済力がない」と、私は絹糸の男の一人としてこの声を耳にする時イカリもくやしさも感じなくなった。でもこの事は単に満性(ママ)になったからではない。「絹糸の男は経済力がないと」云う女性諸君がかわいそうになったからだ。女性諸君が自分の幸福を最大限に広大しようとする努力には敬意を表すると共に出来るだけの助力をしたい。絹糸の男ばかりが男ではない。男は沢山いる。田舎へ帰って結婚するのも又いゝだろう。而し此で看過してならない事は恋愛し結婚の対象を選ぶ時その経済力を第一主義とする態度です。経済力ない対象を選べと言うのではない。女性諸君が自分は女であると云う事をはっきり意識し絹糸の男を絹糸の男と意識しながら「絹糸の男は経済力がない」と云う時女性諸君はすでにその主体性を失っているのです。男女の平等と女性の地位向上を叫ぶ貴女達が自らその主体性をホウキするのはいけません。だからと言って嘲笑やケイベツの意味を含めた言葉は使わないでください。」(絹紡晒練『晒練職場新聞』9号1面)
共働きで突破しようと考える人も。
「トモカセギ
共稼ぎってとても楽しいそうね。もしこゝで結婚するなら絶対にやってみたい。けれど二十六才で標準一万二千円(注1)じゃあとうてい結婚する気になれない。 T子
でも愛し合っている二人なら金なんか問題じゃあない。好な人とだったらこじきしてもいゝワ K子」
(綿・スフ紡仕上『じんし』3号2面)
一方、田舎の親元で結婚したいと思う人もいる。
「結婚は里で
ある日後番での話二人が思うように話した。Tさんが貴女はこゝで職場結婚をどう考えますか、と云って話しに花が咲いたのです。
私は二十六才で結婚出来る賃金を勝ち取っても、こゝでは生活したくないと云った。何故なの…何にが理由なのでしよう。それはね、帰って両親の近く(ママ)方がいヽわ。そしたら、父母のめんども見られるし、又生れた土地が懐しいです。遠くに居たら一年に一度位しか逢えないのですもの。
そうね、私も家での結婚がいゝわ。やっぱり考えの同じな人もあるのだねハハハハ
B子」(絹紡ガス焼『ほのお』9号1面)
寮の部屋のあちこちで、恋の話、結婚の話に花が咲いていた様子がうかがわれる。
(注1) 組合は①年齢給を重点にした、最低生活を保障する賃金体系を②26歳で結婚できる賃金体系を③定期昇給制度を含めた賃金体系を、の三原則を打ち出し、1956年11月、仮妥結した。この時、26歳で標準12,000円の賃金を勝ち取ることが目標とされた。
(下久保恵子 エル・ライブラリー特別研究員)
この 作品 は クリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承 4.0 国際 ライセンスの下に提供されています。