エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)

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所蔵資料紹介~辻󠄀保治資料(近江絹糸紡績労働組合関係資料)

25. 職場新聞(18)職場

 紡績工場では原料の種類や工程によって仕事の内容が違うため、悩みや辛さも異なっていた。

 絹糸紡績晒練職場では、原料を晒練(絹成分を取り出すため、ソーダを入れて煮沸・腐敗させる工程)した後、洗濯するが、これは女性の仕事であった。仕上練が終った原料を鎌や手で運べる大きさに千切り、洗濯機に入れるが、かたまりが大きいものは水に濡れて重く、扱うのが重労働だった。

本当につらい水仕事

今日も又暑い。仕事をする前から汗が出る。それにしても今日は洗濯場、思っただけでも力がぬけそうだ。

最初は元気良くいつもの様に長ぐつをはき、ゴムカッパをあてて勇しい姿で仕事を始める、間もなく汗と水で着ている物は全部ぬれてしまう。しかしみんなは一生懸命ガンバッテいる。なかなか切れない綿を体がくたくたになるまでして重い綿を洗タク機の所まで運び、そしてそれを投げ入れて洗う。又綿を揚げるのに五尺足らずの身体をヨジマゲながら力いっぱい引き揚げる、こんな動作すら思う様に出来ない時本当に泣きたくなる。それだけでなくまだまだ他の作業が沢山待っているのだ。一生懸命仕事をしている時はそれまでもないが(感じないのだが)仕事が終って部屋に帰ってから腹が痛くなったり、体中がだるかったりで後は何にもする気にもなれないのです。(後略)」(絹紡晒練『晒練職場新聞』3号1面)

 

 絹糸紡績製綿職場では、円型梳綿機に上って作業する担当者は、機械に巻き込まれないよう、ウェストぐらいの高さにつけられた板に体を預けて仕事をする。

お腹が痛くて仕事も出来ない

生理の時円型につくのはとてもつらい、何もしなくてもお腹が痛いのに板にのっかるとますます痛くて立っていれなくなる。それに私は月に二回もあるのでたまりませんわ。」(絹紡製綿『蛹粉の中で』3号1面)

 

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円型梳綿機で作業を行う担当者。見えていないが、担当者の立っている側に板がついている。(1955~1957年,彦根工場,朝倉克己氏提供)

  綿・スフ紡績仕上職場では、糸を巻き上げた最終製品(円筒形のものをチーズと呼ぶ)を丸場(集積場)へ運搬しなければならない。

「チーズ村から

覚えているかいあの頃も

泣き泣き運んだチーズの山を

丸場へ積み出す眞白なチーズ

見るたび辛ッいよ俺等のな

俺等の仕事

覚えているかいあのつらさ

一人で運んだナ■台持

競争もしな乍ら運んだっけな

思うだびよくもやっと

この腕をなこの腕をなでる

覚えているかい光ったあの目

チーズを落して怒られたっけ

玉子を持つように運べと云った

今でも浮ぶよあの頃の

あの頃の」(綿・スフ紡仕上『じんし』2号4面)

 

今も昔も仕事を休みたいのは一緒である。

金をくれたら休む

でも……。

やすみたい、休みたい。

私の心のなかは今日■の休みたいでいっぱい。でも今の所あまり休むわけにゆかない。休んでも金をくれたら、いくらでも休みたい。早く楽な生活が出来る世の中にしてほしい。

してほしいじゃなくて自分でやらなければ、だれも楽にしてくれない。いつまでまっていてもむだである。どうしてこんな世の中であるのかと、云うことを考えよ。」(絹紡製綿『蛹粉の中で』14号4面)

 

でも、小さいことで時々なごむ。

「今日も元気の良い唄声が練場の上から聞えて来る。此んな日、女の人は、あゝ今日は男子の人は、高気圧だなあと云う。たしかにそうだ。

歌の聞こえない日は底気圧なのだ、その日は女の人にもあたり洗濯場の人は笑顔すら見せない。何かにつけて腹立せ、又気の良い時には、口々に女をひやかし、ひやかされる女も高気圧に成っている。こうして晒練男子には晴れたりくもったりする日がある。何かに付けて立腹又何かに付けて笑顔をみせる。此れが今日の晒練に仂く若者の青春なのだ。 らくがき助より」(絹紡晒練『晒練職場新聞』6号3面)

 

応援してもらう時うれしいワ

(前略)赤ランプがつき運転がつきはじめた、ついたのはいいけれど、糸切れとテープはづれ(注1)でボコボコ(注2)になっていた。私はそれをいやいやながら、一人で継いでいたのです。すると一人の玉揚の人がきて応援して下さいました、そのときのうれしかったことをわすれません。応援する人はいつもして下さいますが、しない人は少しぐらいの運転切れ(注3)やテープはづれなどは応援しません。私たち台付は運転切れが元でボコボコになるのです。台付だって玉揚の人のいそがしいことは誰よりもよく知っています。でも台付としては、少しでも応援して下さる気持だけでうれしいのです。(後略)」(綿・スフ紡精紡『ぼこぼこ』5号3面)

 

(注1) 糸を巻き取るスピンドルを駆動するためのテープ。外れるとスピンドルに糸が巻き取られず、篠巻の糸が切れ、機械が綿だらけになってしまう。

(注2)精紡中に糸が絡んで毛羽がくっつき、木管に巻き取られず、糸切れする状態のこと。

(注3)機械の不具合等で、一旦、機械の運転を止めること。

(下久保恵子 エル・ライブラリー特別研究員)

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