エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)

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所蔵資料紹介~辻󠄀保治資料(近江絹糸紡績労働組合関係資料)

27.職場新聞(20)ふるさと

 職場新聞の文芸欄には、ふるさとへの帰省や親きょうだいについての詩や雑感があふれている。

あいたい かあちゃん
台をまわしていると浮んでくるわ
母の姿
今頃何をしているかしら
あのしわくれた手で
汗をながして
今日も、くわと、競争しているだろう
早くかえりたい
でも汽車賃がない
汽車賃どころか、赤字だ
早くあいたい
お母さんに」(絹紡製綿『蛹粉の中で』13号3面) 

 

工場での体験を通じ、母の生き方への客観的な眼差しも。

お母さん
毎日
あのの臭い魚と共に
仂いているかあさん
十人の子供を生んだかあさん
かあさんはなぜ
そんなにもくもく仂いているの
もう白髪が一本二本とみえ出したのに
「芳子や
着物をつくるために仂くのやで…」と
いつか帰省した時に
かあさんはいった
私にはわかる
しかし
かあさんは
ただ仂くだけで
なぜか?
どうしたら?
と云う事を考えないのね
昔も今も
変らぬ貧乏暮しのかあさん」

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綿・スフ紡仕上『じんし』4号6面

  帰省は実家の労働と工場の労働を比較する機会ともなる。
田舎と製綿の仕事
久し振りになつかしい故郷にと足をむけた朝は、皆が夜ねむってる頃起きて車を引いて出ていく、そして露のあるうちは稲をこぐ、あたり一杯ひびき渡る音を立てて、となりの音と競そって仂いているように…
その后ではわらを束ねて行く母、稲を渡す私/露が落ると稲を刈る ざくざくと、歯ぎしり良く大きな音を立てて兄と競争する私、刈った后をふりむけば、小学生の子供のようにずらりと一列に並んでいる、面白いようだがなかなか腰の痛い仕事、「彦根とどちらが良いか」とたずねる母、その時私は、自分の仕事が良いのに気ずいた、えらいとえらいながらも八時間と定められた仕事の方が楽だ
皆さんこれからも元気で仂き、明るく楽しい職場にしましょうね、農家生れの一女性」(絹紡製綿『蛹粉の中で』9号4面)

 

 一方で、彼ら彼女らの得る収入は、実家の生活を支えている。
援助金をもらってたらおもちやも買えない
一寸はずかしいけど今思っていることを書いて見る。この間、母よりから(ママ)便りが来た。
その手紙に、弟の分も入っていた。
「お正月には、雑記と野球のクローブとバットを送って下さい。と書いてあった。
母の便りを読むと色々苦しい生活の模様と、弟がこんな手紙を書いて姉ちゃんに出すといってきかない。
でも家の生活は、村の援助金をもらっているような状態なので、近所のことも有るので送ってくれるな。
「お金でならいいけど」と書いてあった。
村の援助金をもらっているのがどうして悪いのだろう。
子供に本や、遊び道具をあたえるのに、なんで近所が、とやかくいわなければならないのだろう。私にはわからない。ボーナス、給料がもう少し多ければ、月二千円ぐらいの援助金の分ぐらい、送金できるのになあ。今の私じゃ月千円の送金だけでぎりぎりなんだもの。本当に弟妹たちに気がねして生活している母がかわいそうでたまらない。」(絹紡ガス焼『ほのお』10号2面)

 

 ボーナスの喜びも自分ひとりのものではない。
母にも毛糸のトッパーを
ボーナス■万円もらた。びんぼうな生れてはじめて持つ大金で故郷のお母さんには何を送らうかしら。いつも子供、子供といって自分ではボロを着て冬になると手でひヾだらけにして仂いていた母、あまり高いも【一行判読不可】のトッパーを送らう。お父さんは酒がとても好きだったけど、まさかお酒を送るわけにもいかないだろうから足袋でガマンしてもらおう、兄さんはカメラがほしいと夢中でお金をためていたけど、もう買えたかしら、少しお金を送ってやろうか、それともネクタイにしようかな、妹は雑誌とよく勉強する様に学用品セット、弟は勉強なんか 一寸もしないで遊んでばかりいてよく食べる子だから、おかしでいヽかな、喜ぶだろうな、でもこの前家に帰った時、妹が一寸さ、やいたっけ「姉さんが小包を送ってよこしたらお母さんがとてもおこるよ だけどやっぱりうれしいんだってさ、お母さんは」(絹紡ガス焼『ほのお』10号1面)

 

 そして、「スト娘」と自称する彼女は、人権争議の経験とともに同窓会に出席する。
話す事が出来る様になった
同窓会出席に当って今年は私が卆業して、始めて同窓会があるとのこと、先月も連絡がり((ママ))大変嬉しくてならない。
でもその反面何かひけめを感じる、スト娘と云われないかしら、どう質問されるかちよっと心配です、でも安心安心中学時代だったら人前で話す事も出来なかったんだわ、でも現在の私はちがう、あのストがあってからは発表出来る様になっている、みんなの話し合いの中から伸びて行く職場や組合、自治会の話、団結の力で勝ち取った一時金のことをみんなに話して■■たい。」(絹紡ガス焼『ほのお』10号1面)

(下久保恵子 エル・ライブラリー特別研究員)

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