エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)

ブログ記事の引用転載を希望される方は、https://l-library.hatenablog.com/about をご確認ください

『スクリーンに息づく愛しき人びと』

熊沢誠著『スクリーンに息づく愛しき人びと : 社会のみかたを映画に教えられて』耕文社  2022.4   19cm  207p

エル・ライブラリーにて割引販売中! 

税込み定価1980円→特価1600円!(送料1冊180円)

お申し込みは お問合せ - エル・ライブラリー からどうぞ。

 不肖私が帯に推薦文を寄稿した本書をご紹介します。言及される映画は90作近く、そのほとんどを自身も見ていることに我ながら感動したわたくしでございます。

 さて、本書の著者は労働研究の泰斗として名高い熊沢誠さん。大の映画ファンとしても知られ、その端麗な文体で織りなされる映画愛は読む人の心を安らげ、温かくしてくれます。心だけではありません。脳みそへの刺激もしっかり受けて、映画の様々な背景に思いが至り、勉強になる/勉強しようと思わせる本でもあります。そして何よりも、著者本人の言葉を借りれば、「映画へのどうしようもない愛執」を語る一作です。映画ファンにはたまらない言葉ですね、映画愛執。

 全28話に及ぶ映画語りは、「Kokko」誌(国公労連編集)での2015~21年の連載を元にしています。各話のタイトルに挙げられている作品はいずれも最近のものですが、その映画にインスパイアされた過去作や関連作品も数多く言及されます。アクションあり、メロドラマあり、戦争もの、歴史ドラマ、社会問題、事件・事故、とさまざまな素材を扱った作品群です。とはいえ、ホラーは皆無、アニメとSFはほんのわずかで、著者の好みの偏りがはっきりしています。当然にも著者はもっと多くの映画を観ているわけですが、その中からこれぞというものだけを厳選して語っています。そうなると選ばれた作品は自然といわゆる「社会派」に行きつくのでしょう。

 取り上げられた映画は称賛されているだけではなく、時に厳しい批判の眼も向けられています。その論点に首肯するのも違和感を持つのも読書の楽しみでしょう。映画を観て社会・労働問題を知る。映画を楽しみながら映画に学ぶ。一粒で何度でも美味しい映画鑑賞の方法と読書の楽しみを味わわせてくれる本書を読んで、映画を観て、ともに語り合いませんか?(谷合佳代子)

目次

序にかえて
第1話 階級連帯の内と外 『パレードへようこそ』『ブラス!』『リトル・ダンサー』
第2話 日本・一九四五年八月 『この国の空』『日本のいちばん長い日』
第3話 引き裂かれた妻と夫の再会 『妻への家路』『かくも長き不在』『心の旅路』
第4話 狂っているのはどちらか 『天空の蜂』『生きものの記録』
第5話 『明日へ』の『外泊』 韓国の非正規女性労働
第6話 山田洋次が見失ったもの 『母と暮せば』への軌跡
第7話 限られた生の証をいとおしむ 『わたしを離さないで』
第8話 『64─ロクヨン』の厚みと熱量
第9話 〈労働〉のリアルをみる憂鬱 『ティエリー・トグルドーの憂鬱』『ナビゲーター』
第10話 かけがえのない出会いに賭ける 『怒り』『悪人』
第11話 トランプ時代の『トランボ』観賞
第12話 日本の女性の半生・淡彩と油彩 『この世界の片隅に』『にっぽん昆虫記』
第13話 サフラジェット賛歌 『未来を花束にして』
第14話 アンジェイ・ワイダの遺したもの 『残像』『カティンの森
第15話 「頑張れ!」の届く地点はどこに 『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』『川の底からこんにちは
第16話 二〇一七年の映画ノートから 『夜明けの祈り』と『黄色い星の子供たち』 『わたしは、ダニエル・ブレイク』と『リフ・ラフ』
第17話 報道の自由とベトナム戦争 『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』『ハーツ・アンド・マインズ』
第18話 仮構の家族の絆と危うさ 私の『万引き家族』鑑賞
第19話 八〇年代の韓国・民衆抵抗の息吹 『タクシー運転手 約束は海を越えて』『1987、ある闘いの真実
第20話 企業告発における「外部」と「内部」 『七つの会議』『空飛ぶタイヤ』
第21話 ふたつの「希望」 『僕たちは希望という名の列車に乗った』『希望の灯り
第22話 『長いお別れ』の不思議な明るさ
第23話 格差社会を抉る二つの秀作 『ジョーカー』『家族を想うとき』
第24話 『Fukushima 50』の光と陰
第25話 兵士の帰還 『ディア・ハンター』『我等の生涯の最良の年』『ハート・ロッカー
第26話 『真昼の暗黒』をめぐって
第27話 子どもたちの受難 『存在のない子供たち』『異端の鳥』
第28話 ホワイトカラーの従属と自立 『アパートの鍵貸します』『私が棄てた女』
あとがき
本書で語られる映画 タイトル・監督・そのほか