エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)

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石炭研究の博士論文など

 早稲田大学の嶋崎尚子研究室の門下生が今春2人そろって博士号を授与され、めでたく当該論文を寄贈してくださいました。おめでとうございます!!

 嶋崎先生と研究室の方々とは、当館の2017年展示「炭鉱の記憶と関西」の準備段階からのおつきあいで、わたしはみなさんが羽ばたいていかれるご様子を眩しく嬉しく拝見していました。

 この度頂戴した博士論文の製本版書誌情報は以下の通りです。

・清水拓『日本石炭産業の技術的到達点における生産職場の研究 ―1990年代の太平洋炭砿の採炭現場を事例として―』2022年4月 189p 30cm

・笠原良太『石炭産業の漸次的撤退と閉山離職者の子どものライフコース ―雄別炭砿株式会社尺別炭砿の閉山と中学生に関する追跡研究―』2022年4月 137p 30㎝

 

 この2論文に対して同時期に学位が授与されました。どちらも石炭産業の研究を社会学のフィールドで行ったものであり、同じ研究室で切磋琢磨されてきたであろうと拝察します。清水論文は石炭の技術論であり、炭鉱の労働世界を描くものです。一方の笠原論文は閉山に伴う親の離職がどのように子ども達に影響を及ぼしたのか、移動する炭鉱家族の子世代に着目した研究です。石炭産業に着目する社会学の研究でもまったく異なる方向からの照射であり、ともにオリジナリティ溢れる素晴らしい研究です。

 著者は二人とも北海道の炭鉱をフィールドとしています。清水論文では日本に残った最後の炭鉱である太平洋炭砿の1990年代の採炭現場の労働のありようを明らかにすることを企図しています。先行研究では不十分であった、「石炭を採取する生産点に立ち返って炭鉱労働を考察する」ことを課題として設定しています。それは従来、「危険な地下労働」としてとらえられてきた一面的な炭鉱労働のイメージを払拭するものでもあります。多くの写真や図が掲載されていますが、技術的な説明は高度なのでわたしのような素人は読み解くのに苦労します。これが技術史ではなく社会学の博士論文であるところが異色といえるのではないでしょうか。

 笠原論文では尺別炭鉱閉山後に親の離職や移動が子どもたちにどのような影響を与えたのかを調査分析しています。従来、労働移動の問題として労働者自身の調査はありましたが、その二世たちの動向に着目した調査は存在しませんでした。閉山は地域の崩壊をもたらすような衝撃的な出来事であり、子どもたちは長期にわたる影響を受けたと考えられます。笠原論文では閉山前のコミュニティでの生活と、閉山に伴う家族の移動が子どもたちのライフコースに与えた影響を明らかにします。そのために、同郷会や同窓会を通じた追跡調査を行っています。その調査結果については、当時中学生だった子どもたちの、その後の高校・大学進学に明確な違いが見て取れることが浮き彫りにされています。

 なお、笠原論文の元となった論考も掲載されている『〈つながり〉の戦後史 尺別炭砿閉山とその後のドキュメント』(嶋﨑尚子、新藤慶、木村至聖、笠原良太、畑山直子子著、青弓社、2020.11)もすでに当館に寄贈していただいています。こちらは写真がふんだんに掲載されていて、読みやすいものですので是非多くの人に読んでいただきたいです。(谷合佳代子)