前回の「寄贈本紹介」では、創立100年を迎えた日本共産党大阪府委員会から頂いた記念誌を取り上げました。同じ2022年に創立100周年を迎えた団体として忘れてならないのは、「水平社」です。全国水平社は被差別部落の解放を訴えて1922年3月3日に京都で創立されました。それから100年を記念して、昨年は全国各地で水平社結成100年の展示会などのイベントが開催されました。
その一つに、高知市立自由民権記念館で10月1日から11月23日に開かれた「全国水平社創立100周年記念企画展」が挙げられます。昨秋、本企画展の図録『人の世に熱を求めて ~近代日本と高知~』を恵贈いただきました。48頁と薄い冊子(33頁の別冊あり、別冊には年表や吉田文茂さんの論考など掲載)なのですが、中身がぎっしり詰まっていて、豊富な図版が魅力となるものです。
惜しむらくは、人名や地名などに読みがふられていないことです。難読文字が多いうえに、高知県民以外には知られていないものも多く、そもそも人名なのか地名なのかも一瞥ではわからないという固有名詞も頻出します。読みがわかるだけでもずいぶん親しみやすくなると思われます。
図録巻頭では、明治2年(1869年)に高知藩が打ち出した「人民平均の理」という5つの政策が、四民(士農工商)平等を訴えた全国に先駆けた先進的なものとして注目されたということが述べられています。
当時の文書・文献・旗・写真をふんだんに使った歴史解説に、興味は尽きません。図録全体の構成を見てみましょう。
1.「人民平均の理」と「解放令」
2.自由民権運動と部落
3.高知県の部落改善運動
4.高知県の融和運動
5.全国水平社の活動
6.高知県の水平運動
7.戦時下の部落
8.部落解放運動の債権と戦後民主化
このように、時系列を追って、高知県の水平運動がその前史から語られていきます。紙幅のほとんどを戦前期の記述が占め、1942年の水平社の”自然消滅”を以て戦前期が終わります。戦後は最後の3ページだけなのですが、日本国憲法の公布・施行で締めくくられているところが象徴的です。
高知県では、1922年3月の全国水平社結成に呼応して、23年4月5日に全国13番目の組織が立ち上がりました。その後、小説『南国』糾弾闘争や、大阪の岸和田紡績における高知県出身女性たちへの差別事件糾弾闘争などが取り組まれました。
この冊子の中には人物紹介があり、高知県の部落解放運動家群像として14名が取り上げられています。その中にはたった一人の女性、東元安(ひがしもと・やす)が目につきます。見開き2頁に収められた14名それぞれに壮大なドラマがあったことだろうと想像に胸が膨らみます。
なお、本企画展については高知市立自由民権記念館の館報「自由のともしび」でもご覧いただけます。(谷合佳代子)