エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)

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黒川伊織特別研究員の著作合評会の報告

戦争・革命の東アジアと日本のコミュニスト 黒川 伊織(著) - 有志舎 

 報告が遅くなりましたが、去る2月4日にオンラインで開催された、当館特別研究員黒川伊織の著作『戦争・革命の東アジアと日本のコミュニスト―1920-1970年』(有志舎、2020年)の合評会について報告いたします。

◆主催者Webサイトより

黒川伊織著『戦争・革命の東アジアと日本のコミュニスト―1920-1970年』(有志舎、2020年)は、第一次大戦後、ロシア革命インパクトとコミンテルンの働きかけのもと、東アジアの各地に成立した共産党をめぐる動向に光を当てています。コミュニストたちは、戦争と革命の20世紀をいかに生きたか。有名無名の活動家たちの営みを丹念にたどりなおすことにより、革命の夢が潰えたのちもなお色褪せない彼らの〈生きられた経験〉の意味を本書は問うています。当日は2 名の評者に加え、参加者からも多様な読みを示してもらい、議論を拡げたいと考えます。

日時:2023年2月4日(土)午後2時~5時
会場:Zoomミーティング
評者:梅森直之氏(日本政治思想史)、田中ひかる氏(ドイツ・アナーキズム研究)
リプライ:黒川伊織(社会運動史・日本思想史)

主催:歴史学研究会現代史部会

 当日は評者からそれぞれレジュメが提示され、お二人の論評に対してただちに黒川研究員が応答のスライドを作成してZOOMで共有するといった、ライブ感あふれる展開となりました。

 黒川研究員の著作は前著『帝国に抗する社会運動』(2014年)の第2部とも言うべきものであり、「第一次日本共産党にはじまる日本のコミュニストの足跡を東アジアの同時代史のなかに置きなおして叙述することで、日本のコミュニストの歴史経験を「民族・植民地問題」とは異なる文脈のうちにひらくこと」を目指しています。

 すでに本書発行から2年以上が経っていますが、このような本格的な合評会が開かれたのは初めてと思われます。

 まず梅森直之氏は同書を「圧巻の群像劇」と評価し、同書を舞台になぞらえてアクターを並べ読み解くという興味深い趣向の報告をされました。「舞台」に登場する役者(個人と団体)の多さに驚嘆しつつ、一見悲劇に見える物語の筋立てを描いていく主要メンバーの動き(戦前・戦後の共産党幹部)を述べられました。

 続いて田中ひかる氏は、黒川の著作が綱領的文書の解読や分析ではなく、「日本の変革の向こうに東アジアの変革を構想して生き有名無名の人びとの歩みを知り、そのような人びとの肉声にこそ耳を澄ませたいと願う」労作であり、「新たな史実やエピソードをふんだんに盛り込んでいる」と評価されています。こういった評価は、政治学者・加藤哲郎氏の評価への賛同として表明されました。

 無名の人々の例として、工場で労働者のオルグを行っていた詩人田木繁の詩「松ヶ鼻渡しを渡る」の引用、北米と日本の連絡を担った「海員コミュニスト」に関する回想の引用、関西での「下からの人民戦線」、朝鮮人被爆者への支援運動に加わった深川宗俊、四國五郎のエピソードなどを挙げ、「これらの資料や文献の引用、エピソードが、社会運動史として、本書を読み応えのある本にしている」と田中氏は評価されました。

 田中氏は合評会当日にかなり長文の論評・質問を用意されていました。その中で中北浩爾『日本共産党-「革命」を夢見た100年』 (中公新書)に言及・比較する形で黒川本を評価されていたことが印象に残りました。

 これらの批判や質問・感想に答えて黒川が用意した回答もかなりの長文に及ぶのでここでは紹介しきれませんが、歴史研究から ”今、ここ” を生きる人々(黒川自身も含めて)の経済的・家族的・社会的困難へと通貫する視座が最後につよく印象に残りました。

 なんのために歴史研究を行っているのか、そのことを新ためて考えさせられた合評会でした。今回の合評会の中身をすべて咀嚼して解説報告するには力及ばずであることが残念です。(谷合佳代子)