この資料集は、一般財団法人石川武美記念図書館の所蔵している女性雑誌のうち、1918(大正7)年から1921(大正10)年までに刊行された、スペイン風邪に関する記事を収集、編集したものである。
スペイン風邪とは、1918年から1920年にかけて、世界規模で流行したインフルエンザの一種で、収録されている雑誌記事のなかには、スペイン風邪の流行の現状を伝え、注意を呼びかけるものや、予防法や治療法についての記事、スペイン風邪に感染した人や、スペイン風邪が理由で亡くなった人についての記事が多い。一方で、マンガのようなコミカルな記事もあり、幅広い種類の記事が見られる。2019年からの新型コロナウイルス感染症の流行を経験した私たちにとって、スペイン風邪に関する記事は、身近に感じられるのではないだろうか。
ここでは、この資料集に収集されている記事のなかから、一部抜粋して紹介したい。まず、治療法については、吸入器で薬を吸入することや、蜂蜜を摂ることでのどの痛みや咳が抑えられるなどの方法が紹介されている。しかし、なかには、現代では信じがたい内容のものもある。特に印象的なもので、黒鯉の生血を飲むという治療法についての記事があり、効き目があるとされ、複数取り上げられていた。
スペイン風邪の予防を呼びかける記事としては、マスクを着けることや、人混みを避けること、予防接種をすることなどが勧められており、コロナ流行時の出来事が思い起こされる。数年前、みんながマスクをするようになったことで、様々な色や形のマスクが売り出されるようになったが、スペイン風邪の記事のなかにも、模様入りのマスクや刺繍をしたマスクが出てきたというものがあり、約100年前にも、マスク姿を少しでも楽しもうという気持ちがあったのだと気付かされる。また、マスクを着けているときと、外しているときの顔の印象が違うことを面白おかしく描いた記事もあり、マスク生活に慣れ、マスクを外すことに照れを感じたことのある人は、共感できるものかもしれない。
一方で、スペイン風邪が恐ろしい感染力を持った病気であったことは新型コロナウイルスと同様で、増加する感染者数の記事や、授業時間が短縮されたり、休校になったりした学校の記事、スペイン風邪によって亡くなったという訃報記事など、当時の混乱をまざまざと思い知らされる。また、小さな子どもを持つ親や、妊娠している人の抱える感染の不安や、経済的な不安、スペイン風邪で家族を亡くした人の悲痛な想いも語られており、ひどく胸を締め付けられる内容の記事も掲載されている。
世界的流行を起こした、新型コロナウイルス感染症との闘いの日々は、まだ記憶に新しく、スペイン風邪との闘いが見える記事は、私たちのそのときの記憶に寄り添ってくれるものかもしれない。(実習生S.O)
※今回の寄贈本紹介は図書館実習のために5日間の業務をこなしてくれた大学生のS.Oさんに書いてもらいました。
<書誌情報>
スペイン風邪と闘った人々の暮らし : 女性雑誌記事資料集
石川武美記念図書館編 石川武美記念図書館 2024.2