当館スタッフの伍賀偕子作成『70年万博とエキスポ争議関連資料』活用事例として、労働ジャーナリスト渋谷龍一の特別報告「万博の労働者が危ない ―エキスポ1970で何が起きたのか」を紹介します。
渋谷の報告は『労働法律旬報』no.2066(2024年10月下旬号)に掲載されたものです。
本論は、1970年の大阪万博開催の折に、当時の大阪総評(日本労働組合総評議会大阪地方評議会)のオルグとして現地に派遣された、当時二十代の伍賀偕子(ごか ともこ)が寄稿した『週刊エコノミスト』の記事の紹介から始まります。著者渋谷は現在の伍賀偕子にインタビューし、伍賀の手記と伍賀が収集した資料を基に本稿を執筆しているので、内容としては「[伍賀の] 寄稿文の焼き直しには違いないが、いわばその新訂版を制作する」としています。
1970年万博の華やかな表舞台の裏側では労働問題が多発していたこと、伍賀たち4人のオルグの働きによって「エキスポ綜合労組」が結成されたこと、同労組は多くの支部を持っていたこと、さらにはストライキも敢行したことが豊富な実例とともに生き生きと描かれています。
伍賀の資料と証言に基づき描かれた50年前の万博での人権無視の労働問題多発の実態は、昭和の話として片付けてはならない、と結ばれています。
「万博会場という期間限定開催で外国流が持ち込まれる特殊な現場では「後は野となれ山となれ」や「旅の恥はかき捨て」の意識が混入してくるのは必至である。……覚悟と準備が必要であろう」(p.34)
エキスポ2025への教訓として、(1)万博では臨時的雇用が多発する、その場合の労働者保護の全体責任を負う体制を明確にすべき、(2)労働組合に開催期間中への対応戦略があるのか、(3)労働者の人権無視を廃絶すべきという国民の意思と万博入場者の厳しい眼が必要、(4)来場者のカスタマーハラスメントを慎むこと、と提示されています。
本論の末尾には、参考資料のすべてがエル・ライブラリーで閲覧できることも追記され、伍賀偕子と当館への謝辞が掲載されています。大変読み応えのある「報告」なので、ぜひご一読ください。もちろん当館に当該号を所蔵しています。複写郵送サービスもお申込みいただけます。
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