『時代に抗する―ある「活動者」の戦後期』 

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 本書は、著者=杉本昭典のインタビュー(構成=市田良彦)と解題「尼崎における日本共産党 『五〇年分裂』の展開」(黒川伊織)の2部構成になっている。
 杉本昭典は、1928(昭和3)年生まれで、本年86歳。敗戦の1945年兵庫県尼崎工業学校卒業後、4月に住友電気工業に入社するが、5月には呉の大竹海兵団に志願兵として入隊。復員後46年1月に大同製鋼(現在の日鉄住金鋼板)に入社。入社直後2月に労働組合が結成されて(総同盟尼崎地方協議会傘下)、青年部の役員となり、5月には共産党入党。1950年レッド・パージにより職場を追放され、以降は共産党の「経営工作者」として、労働運動を支えた。共産党の分裂問題もあり、3度処分を受け、1961年の3度目の除名処分に対して、党を離れ西川彦義らの「社会主義革新運動」(=社革)で活動。インタビューでは、激動の時代を労働者として、共産主義者として生き抜いたひたむきな生きざまと、日本共産党の公式の党史では知りえない党員としての苦闘や労働運動現場からの党上層部への批判等が、率直に語られている。
 日本共産党内の混迷や抗争に興味のない人にとっては、いささか難解だが、編者(市田良彦)による的確で懇切丁寧な注釈が付されており、何よりも語り手=杉本の生き生きとした語りが、その「時代」を生き抜いた証言として曳きこまれる。
 軍国少年の志願水兵が、労組青年部の役員となり、17歳で共産党に入党、「あっという間の左旋回」を遂げるのは、まさに「歴史の大転換」に直面して、「天皇制批判から自分の生き方を若いなりに問い直した」結果である。その感性は、「産業報国会系の“右”も含めた総同盟」や社会党に対して“生ぬるさ”を感じ、共産党を選択する。
 「戦後最初期の党員」として「だいじにされ」、47年には、尼崎地区で地区委員候補にもなり、党の重要な会議にも出席し、党史における錚々たる幹部にも接することになる。しかし、労働運動現場の杉本からすれば、東芝から始まる労働争議阪神教育闘争(48年4月大阪府兵庫県で展開された朝鮮人の民族教育弾圧に対する闘争)における「党と労働組合の軋み」を敏感に受け止め、党改革の必要性を実感する。
 1950年、コミンフォルムから日本共産党の「占領軍=解放軍」「占領下の平和革命路線」が批判され、党は「国際派」と「所感派」(=主流派)に分裂する「五〇年分裂」でも、現場の運動からの発想で「国際派」を選択し、除名される。
 50年10月末には、レッド・パージにより10人の仲間と共に職場から追放される。どのような形でレッド・パージが強行されたのかの語りも、歴史的な記録として興味深い。
 52年初春からの党の「軍事路線」「火炎瓶闘争」―「労働争議をやってる最中に、Y(中核自衛隊)をつくれという指導」に対しても、幹部に「大衆運動抜きにこういうことをやるいうのは、どうも解せん。大衆運動いうもんは、デモ、サボ(サボタージュ)、ストライキの上にあるもんやろ。それらの発展の上に権力と対決するもんやろ」と、率直な批判を述べたが、「お前は火炎瓶投げるのが怖いんやろ」が返ってきただけ。火炎瓶闘争は、52年7月の「共産党創立30周年に際して」という徳田球一論文で終止符が打たれるが、「お前ら、昨日まで正しい思うてたことが間違いやったと言われてるんやぞ。悩まへんのか!」「大衆を何と思てるねん」という憤りは、誤った方針で多くの犠牲を蒙った党員たちの叫びにほかならない。
 再除名されてからは、西川彦義の『関西労働通信』の活動に携わる。党への復帰は55年7月の六全協(第6回全国協議会)決議によってであり、9月から党再建のための兵庫県指導部に復帰。まさに「どん底からの再建」に邁進する。
 3度目の処分は冒頭に述べたように、61年第8回大会での綱領論争で、これ以来離党して、「独自の道」=「社会主義革新運動」を歩むことになる。阪神間での中小企業労働運動に指導的役割を担い、阪神医療生活協同組合市民運動にも携わる。
 解題「尼崎における日本共産党 『五〇年分裂』の展開」(黒川伊織)は、日本共産党の「五〇年分裂」の尼崎地域における展開を、杉本証言に即して緻密に検討している。公式党史から離れて、「五〇年分裂」の当事者的立場からの重要な証言や、運動史的立場からの研究動向も踏まえての解題は、これ自体独立した研究として興味深いものがあるが、公式の党史批判が本書の目的ではないので、個々の実証は省くが、黒川の最後の括りの言葉をそのまま引用したい。
― 本書から何を読み取るかは読者によりさまざまであろうが、いったん公式党史を括弧に括ったうえで、関西の思想・運動の土壌に想像力を働かせるとき、最も豊かな意味を本書から汲み取ることができるように思われる ― (伍賀偕子)

  • 時代に抗する : ある「活動者」の戦後期 / 杉本昭典著; 市田良彦, 黒川伊織編. 航思社, 2014.6